1-04. 嘆きの花嫁人形

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 時宮の家で母親に愛されて育てられていた頃だって、旧華族の双子令嬢とはいえ薔薇の花のように美しく天真爛漫に育てられた姉の綾音と比べれば価値のない妹で、周りの人間からは姉のおまけのように扱われていた。綾音はそんなこと気にしないで一緒に遊んでくれたし、綾音が悪いわけでもないけれど、それでも音寧が委縮してしまうのには充分で。結局綾音と自分が対等だとは思えないまま、音寧は彼女と生き別れてしまった。「また逢いましょう」というさよならの言葉が永遠のものになるとは知らずに。  音寧が帝都から姿を消してからも、綾音はあのまま成長したのだろう。彼女なら相応しい縁談を調えられて、華々しい婚儀を挙げたはずだ。現に、結納までは親族同士で済ませていたというのだから。大正十二年の夏に……  けれどその後に起きた震災によって歯車が狂ってしまった。順調に見えた縁談は綾音の死によって音寧のもとへと転がり込み、もはや逃げることは叶わぬと帝都へ連れてこられてしまった。そこまでして岩波家は時宮の血縁を欲しているのかと愕然とする。
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