1-04. 嘆きの花嫁人形

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 あの震災で実質上、旧華族時宮家は一族郎党死に絶えて滅亡したと考えられている。土地は国に回収され、焼け跡から出てきた遺品の一部だけが遠戚や音寧のもとへ返された。もはや「時宮」の姓を名乗る人間はいない。だから岩波家との縁談は自然消滅するものだと思われていた。けれど岩波家はそれを許さなかった。まだ時宮の、隠された姫君が生きているだろうと音寧の居場所を問いただし、引きずり出した。  皮肉にも養女として桂木の家へ出された音寧が、時宮の唯一の生き残りとして、岩波家の希望となってしまったのだ。  やがて音寧を待たせた張本人が黒檀の杖を操りながらゆっくりと部屋を訪れ、彼女の前へ腰かける。真っ白な髪に黒のスーツがよく似合っている。五代目有弦の祖父にあたるというこの人物が、いまの岩波山の長で、かつての三代目有弦である。 「待たせた。時宮の」 「その名でわたしを呼ばないでください」 「だが、その身にはまぎれもなく時宮の血が流れておる。岩波山がいま欲しているのはそなたの血だ」
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