1-04. 嘆きの花嫁人形

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「今宵、祝言(しゅうげん)を挙げる。日本橋本町の店舗で行うことは叶わぬが仕方ない、この邸で契りを結べ――そして有弦の子を身籠るまで、そなたはこの邸を出てはならぬぞ、わかっておるな」  どこか物騒な捨て台詞とともに姿を消す飄々としたご隠居を見送り、音寧は黙り込む。  震災によって引き裂かれた恋人たちに代わって、結婚し、その血を残すために子を作ることを強要される。子を孕むまで音寧はこの洋館から出てはいけないと、一方的に告げられてしまった。このことを五代目有弦も知っているのだろうか。もし、そうだとしたら。  やはり自分は姉の代わりの花嫁人形でしかないのだろう。  泣くに泣かれぬ花嫁人形は、嘆く姿を隠そうと表情を歪ませて、絶望の吐息をつく。
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