1-05. 祝言と監禁

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 本当ならば綾音が着るはずだったものを自分が着ている、自分なんかが着て許されるのだろうか……とはじめのうちは怯えていた音寧だったが、新郎となる五代目有弦に「よく似合っている」と言われて不安が霧散してしまった。我ながら単純なものだと思うが、新郎は本来ならば自分ではなく綾音を花嫁にするはずだったのだ、音寧のなかに死んだ綾音の姿を見ているだけかもしれないと考えたらまた落ち込んでしまう。落ち込んだり舞い上がったりをぐるぐる繰り返しているうちに祝言後の宴会も終わっていて、その場を仕切っていた三代目の姿も消えていた。集まってくれた親族を送り出すために玄関ホールへ向かったのだろう。彼らもまた「有弦どのが求めた時宮の姫君が来られればこの岩波山も安心ですな」と心強そうに言っていたが、音寧は作り笑顔で応えることしかできなかった。幸いだったのは、花嫁に直接話しかけてくる失礼な人物がおらず、有弦が間を取り持ってくれたことだ。震災で花嫁が姉から妹に代わった花婿の方が辛いはずなのに、彼は心底音寧を花嫁に迎えることができてよかったと彼らを安心させてくれたから、音寧は宴会の場で途方に暮れずにすんだのだ――たとえそれが彼らを欺くための嘘であったとしても。
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