1-06. 呪詛と渇望

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 初代岩波有弦が茶商として成功したのは、内助の功である妻の存在が大きいとされている。もともとは高貴な身分の姫君だったらしいが、駆け落ち同然で初代のもとへ嫁ぎ、彼の夢を応援したのだとか。  二代目もまた初代同様に身分違いの姫君に恋慕した後、拐して既成事実を作り嫁にしてしまった。その際に生まれたのが三代目、いまのご隠居である。 「岩波の男は高貴な血をもつ女を強く求める。なぜなら有弦を名乗る以前の先祖は蛮族として扱われ、人としての尊厳を著しく損なっていたからだ」  嘘か真実かはさておき、江戸末期より明治、大正へと時代は移り、三代目も旧華族の没落令嬢と見合いによって結婚した。互いの親同士が金銭のやりとりをしていたことは暗黙の了解である。  高貴な血統に飢えている岩波山の男に宛がわれた女たちは彼らの花嫁となり大切に扱われるが、見返りに後継を産み育てることが要求された。男は女を渇望し、子を孕ますまで昼夜問わず愛した。そして、女の生命を喰らう形で次の有弦が誕生すると、女は力尽きて動けなくなることも多かった。二代目と四代目の奥方が早死にしてしまったのは、花婿に執拗に求められ身体を壊した結果だろう。
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