1-06. 呪詛と渇望

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 優しく処女を奪った有弦は、日を追うごとに獣のように獰猛になり、常に苦しそうに音寧を求めるようになった。彼の苦しみは音寧を掻き抱くことで落ち着くのだという。そして番となった高貴なる女性に岩波の子種を注ぎ、孕ませ、後継となる男児を産み落とすまでその性欲は留まらない。  なぜ岩波の有弦と名乗る男だけがこのような本能に脅かされ、妻となる愛する女を傷つけるほどに追い詰めてしまうのか、原因はわかっていない。ただ、後継者を残せば自然と落ち着くものだと三代目は考えていたから、音寧に「有弦の子を身籠るまで、この邸から出てはならない」と釘を刺したのだろう。  有弦は三代目が口にしたことを「岩波山の掟」だとつまらなそうに言い捨てていたが、それに反することはできないと申し訳なさそうに音寧に説いた。岩波山の新たな主人に託された呪いにも似た渇望を満たすことで、商売は繁盛し、一族は繁栄する……そのためには花嫁を繋ぎ止め、自分だけのものにしつづけなくてはならないのだと。
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