1-06. 呪詛と渇望

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 そう言って降ってくる接吻は、葡萄のような味がする。有弦は今宵も薬酒を飲んでいたのだろう、甘くて切ない口づけを繰り返して、ふたりは貪り合うように舌をのばして絡ませる。  そして――まだ足りないと、子どものように擦り寄ってくる彼のおおきな身体を抱き返して、音寧も恥ずかしそうに、両脚をもじもじさせる。口づけだけで疼き出す身体の反応に戸惑うことも、いつしかなくなりつつあった。  彼の手は勃ちあがっている音寧の両乳首に移動している。ふれられただけで楽器のように高い声で啼く妻を奏でながら、未だに潤ったままの蜜壺へ楔を打ちつけ、絶頂を教え込む。  彼に求められ、与えてあげられる歓び。  彼と男女の交わりを通じて、官能の海に浸れる悦び。  子を為すまでとはいえ、こんな風に閉じられた世界で愛の言葉を囁かれながら結ばれる日々は甘くて、音寧をしあわせな気持ちにさせた。  けれど。  目を覚まして隣に彼がいないと不安になってしまう。  ほんとうは、姉の綾音が彼にこんな風に求められて、執拗なまでに愛されたのではないだろうか。
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