1-07. 破魔のちからと形見の鏡

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 現に綾音は破魔のちからを持って生まれてきたが、音寧は時宮の血を持っていながら破魔のちからを持っていない。持っているのは青みがかった気味の悪い黒い瞳だけだ。母親はこれも時宮の不思議なちからの顕現だと音寧を慰めてくれたが、常人と同じ見た目の綾音が破魔の能力を持っているのを見れば、父親が役に立たない自分をなかったものとして扱うのも仕方がないと半ば諦めもついた。  それでも母親が生きていた頃は綾音と音寧はともに行動することを許されていたため、時宮家の双子令嬢として周囲から羨望の眼差しを向けられていた。ふだん使うことのない破魔の能力だが、悪いことを回避させるという意味合いで「時を味方につける」と囁かれていたためだ。音寧にそのちからがないことを彼らは知らない。知っているのは両親と綾音と音寧だけ。  綾音が不思議な鏡を蔵で見つけて持ち出したのも、そんな幼い頃の、音寧と鬼ごっこをしていたときのことだった。薄紅色の着物を着ていた綾音と、萌黄色の着物を着ていた音寧はお互いに「鬼さんこちら」と声を掛け合い、歌いながら時宮邸の裏庭を走り回っていた。
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