1-08. すれ違いの蜜夜

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「なあに、どいつもこいつも五代目有弦の襲名に浮き足立っているだけだ。結婚の報せはしたが披露目の必要はないさ。おとねがどうしてもというなら俺の後継を生んで基盤を整えてからだな。それに、披露目なぞ日本橋本町の区画整理と復興が終わって店を再建させてからでも遅くはない……まああと五年くらいかかるかもしれぬがな、銀座と違って」  震災から一年半が経ち、いち早く立ち直った銀座のようすを語りながら、酒気混じりの有弦が音寧にぼやく。酒をずいぶん飲んできたらしく、ふだんより饒舌だ。 「食事は美味しかったが華がなかったからなあ。あいつらは俺が花嫁を見せびらかしに来ると思っていたらしいが、古狸たちに音寧を見せてやるほど寛容じゃないですから……それにしても今夜の夜着もよく似合っているね、妖精みたいだ。胸元のリボンは自分で結んだのかな? 脱がすのが惜しい」 「……やっぱり脱がせるんじゃないですか」 「その前にこの窮屈な着物を脱ぎたいぞ。音寧、手伝っておくれ」 「はい、有弦さま」
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