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「――すまない。怖かったよな……おとね?」
吐精とともに酔いも醒めたのか、有弦が我に却る。怒りに任せて「優しくしないで」と言い放った妻を束縛し、無理矢理抱いた自分に後悔したものの、興奮してしまったのも事実だ。
彼女はそれでも自分を受け入れ、有弦が望むように身体を繋げてくれた。
――お慕い、しております……ゆうげん、さま……
情事の最中にぽとりと零れたその言葉が偽りのものだとは、どうしても思えない。
意識を失った妻の身体をそうっと横たえ、縛っていた着物の帯をゆっくりとはずしていけば、手首に赤い痕ができている。
「おとね……俺は、ひどい男だぞ?」
きっと真実を話しても、彼女は素直に自分のことを受け入れてくれるだろう。けれど、いまはまだ……自分が死んだ双子の姉の代わりに嫁いできたことを負い目に感じている彼女に、ほんとうのことを伝えるのは、酷だろう。いや、有弦が話す勇気を持てていない、それだけの話かもしれない。
……自分もまた、本物の五代目岩波有弦ではない、身代わりの花婿でしかないことを。
「なのに、貴女は……」
「……ん」
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