1-09. 甘い束縛と恋する虜囚

6/6

248人が本棚に入れています
本棚に追加
/608ページ
 戒めの痕に口づけて、有弦は自嘲する。意気地無しの自分と違って、彼女は自身のことを「姫なんかじゃない」と宣言したうえで、岩波山の嫁として自分と添い遂げたいと態度で示してくれた。  岩波山の五代目として死ぬ前の傑に追いつくためにも、時宮の高貴な血を引く後継が必要だということは痛いほど理解している。音寧もその掟に縛られ、有弦との情事に身を投じている。ほんとうは、無知な自分より傑のような男の方が、彼女を幸せにできるのかもしれない。こんなにも彼女をいとおしく想うようになって初めて、有弦は自分が至らない人間であることを痛感したのだ。 「傑……俺が死ねば良かったのにな」  弱々しく吐き出した彼の泣き言が、意識を取り戻した音寧の耳底にこびりついてしまったことなど、夢にも思わず。
/608ページ

最初のコメントを投稿しよう!

248人が本棚に入れています
本棚に追加