1-10. 鏡の庭で識った罪

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 洋館の応接室で彼女と対峙した音寧は、「そんな薄着で過ごしていたら身体を冷やしてしまいますわ!」と開口一番怒られ、多嘉子が産前に銀座で買ったという真っ白なコートを手渡され、慌てて山葡萄色のワンピースの上に羽織ったのであった。どうやらはじめから多嘉子は音寧と庭園で話をしたかったようだ。いくら天気が良いからとはいえまだ外は寒いですお風邪を召してしまいますと制止する執事たちをいなし、音寧を玄関先へ連れ出した彼女はぷりぷり頬を膨らませながらすたすたと歩いていく。 「男たちは何もわかっちゃいないのです。邸に閉じ込めたままにしたところで、そう簡単に(こうのとり)が訪れるわけないでしょう?」  紺のロングスカートに柄物のコートをお洒落に着こなす多嘉子は、まるで職業婦人のようにすらりとしていて、産後とは思えない体型をしている。もともと太りにくい体質だとかで、たくさん食べていたにも関わらず栄養がほとんど生まれてきた赤子に取られていたのだという。四人目にして待望の男児が生まれたとかで、横濱にある百貨店の経営にも関わる輸入商のもとへ嫁入りした多嘉子は清々とした表情で音寧に告げる。
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