1-10. 鏡の庭で識った罪

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「早く後継ぎがほしい、ってのはどこの商家も似たようなものね。わたくしの場合は、そこまで切羽詰まってなかったけど」 「そう、なのですか」  凍てつくような寒さがつづいていた先日までとは異なり、今日は風ひとつない穏やかな冬晴れである。  あちこちで春の兆しが見えはじめたこともあって、太陽に照らされた庭園には音寧たち以外にも使用人がちらほらいて、外で洗濯物を干したり、庭木の手入れをしたりしている。  自分が暮らしている邸の庭に降りたのが初めてだという音寧に呆れながら、多嘉子は慣れた足取りで南に位置する四阿目指して進んでいく。黄色い蝋梅や水仙の花が目立っていたが、足元では薄紫色の蕃紅花(クロッカス)が、音寧の背の高さもある垣根には桃色の乙女椿が密集して花を咲かせていた。  そんな乙女椿が鈴なりに咲き乱れている桃色の垣根を越えたところで、音寧は驚いて瞳を瞬かせる。 「――これは、湖?」 「観鏡池(みかがみいけ)、というのよ。いまの時期は凍っていることが多いんだけど、今年の冬は暖かかったから、完全には凍らなかったみたいね」 「ミカガミイケ……」
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