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多嘉子に案内された四阿は正確には西洋の庭園でみられるガゼポ、と呼ばれるものらしい。周囲には冬でも咲く紅色の薔薇が植えられており、冬の澄み切った空気を嫌味にならない程度に、ほのかに甘く香らせていた。
平面から見ると八角形になっているという白い屋根と柱で作られている木造の建物のなかに設置されていたベンチに腰掛け、音寧はきょろきょろと改めて周辺を見回す。
「邸のお庭がこんな風になっていたなんて……知らなかったです」
「そうよね、ここは岩波家の人間ですら最近は立ち寄らない場所だから」
「そうなのですか?」
「もともと別邸はご隠居が老後に夫婦で暮らすために作った別荘よ。遊び心のある庭先や当時にしてはハイカラな北欧風の建物は、亡きお母様の趣味。わたくしはまだ幼かったからこの邸で成人まで暮らしていたけれど、ふたりのお姉さまと四代目は日本橋本町で生まれ育っているから、ここに住んでいたわけではないのよ」
「ああ……なるほど」
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