1-10. 鏡の庭で識った罪

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 三代目有弦とその妻は四人の子を為し、長男が四代目有弦として日本橋本町の店を継いだ。というのは音寧も知っている。多嘉子は兄の四代目とふたまわりちかく年齢が離れていたから、三代目が隠居する際に西ヶ原の別邸へ一緒に連れて行かれたのだろう。きけば、四代目襲名以前に多嘉子のふたりの姉はとっくに嫁に出されており、三代目の庇護下にいたのは女学生だった多嘉子ひとりだったそう。 「お母様はお兄様の襲名を見届けた後、この邸で息を引き取ったわ。あの頃がいちばん、岩波山が栄えていたとも言えるかもしれないわね……」  しみじみと呟く多嘉子を前に、音寧は首を傾げる。三代目が岩波山の茶商としての地位を揺るぎないものとし、この洋館を建てた後、外需が落ち込み一時的に売り上げが減ったのは事実だが、多嘉子がそこまで暗い顔をしているのを見ると、他にも何らかの問題が生じていたのかもしれない。 「岩波山の嫁は、こぞって短命だって話は知ってらっしゃるかしら」 「呪い、みたいなものだと有弦さまはおっしゃってましたが」
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