1-11. 身代わり同士の苦悩

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「日本橋本町一帯は焼け野原、岩波山本店は壊滅、商いの最中だった四代目と傑の生存は絶望的だったわ」  静岡にいた音寧は怪我ひとつなかったが、帝都を襲った大規模地震は大正十四年を迎えた今もなお、方々に爪痕を残している。岩波山が大打撃を受けたのも有弦から聞いていたが、四代目だけでなく本来五代目を襲名するはずの異母兄も犠牲になっていたとは…… 「だから三代目は生き残った資を五代目有弦とすることにしたの。時宮の姫君を娶らせて」 「だけどあやねえさまは」  綾音もまた、震災で死んでしまった。  だから三代目はもうひとりの、かつて「時を味方につける双子令嬢」と呼ばれた片割れの音寧を引っ張り出してきたのだ……破魔のちからなど、持ってもいないのに。 「そうみたいね」  多嘉子は知っているわ、と頷き、音寧の髪をやさしく梳る。傑も資も、自分の兄姉たちより年齢が近かったから弟のように想っている彼女からすると、資の花嫁になった音寧もまた、妹のような存在に見えるのかもしれない。  音寧は素直に受け入れ、多嘉子の言葉に耳を傾ける。 「憶測だけど……あなたたち、身代わり同士、遠慮しているんだと思うわ」
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