1-11. 身代わり同士の苦悩

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 懐かしむように瞳を伏せる多嘉子を前に、音寧は何とも言えない気持ちになる。『時を味方につける』ことができた破魔の綾音が、一体何をしたのか、同じ双子だというのにまったく想像がつかない。もし、これが自分だったらそもそも岩波の家から結婚の打診など来ることもなかっただろう。  傑が綾音を見初め、結婚を決めたという不思議な出来事があったから、音寧は不本意ながらもこの場にいるのだ。  はぁ、と乾いたため息をつきながら音寧は多嘉子に問いかける。 「それじゃあ、傑さまとあやねえさまは」 「相思相愛だったみたいよ。周りが羨むほど……それこそ資も彼女に憧れを持つほどに」  やっぱり。  ずっと心の奥で凝っていた想いの正体を悟り、音寧は静かに頷く。  有弦が音寧のことを「時宮の姫君」と呼ぶ都度感じていた胸の痛み。その正体は、双子の姉と比べてしまう醜い自分の嫉妬だ。  彼は音寧に綾音を重ねていたわけではない、けれど異母兄が彼女を愛したように大切にしたいと、そう思って自分に接してくれていたのだ。それが、音寧の双子の姉への罪悪感と嫉妬心を強くしていたことに気づかないまま。
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