1-11. 身代わり同士の苦悩

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 多嘉子が教えてくれた真実を前に、音寧は嗤う。 「愛し合ったふたりが震災で亡くなるなんて、皮肉ですね」  そして遺されたふたりが、それぞれの身代わりとして、家のための結婚を強いられる。  有弦が「俺が死ねば良かったのに」と声に出してしまったのもわからなくはない。  現に音寧も、自分が死んで双子の姉が生き残っていればこんなことにはならなかったのにと、考えた夜があったのだから。 「気の毒だとは思うわ。傑も、資も。そして巻き込まれたあなたも」 「……」  それでも岩波の人間は岩波山を再建するため、罪の子だと四代目に蔑まれていた庶子の資が、五代目有弦を襲名し、その際に時宮の姫君だった生き残りの双子の妹、音寧を花嫁に迎えたのだ。岩波山の呪詛にも似た掟に挑むため、公家華族の血統に連なる音寧に岩波山の後継を孕ませるため。  そのうえで彼らは更に期待する。「時宮」の「時を味方につける」という破魔のちからに。  音寧はそのちからを持っていないけれど、それでも有弦は……身代わりの花婿は、双子の姉の身代わりの無能な花嫁を愛してくれるだろうか? 「それでも、今を生きているのは、あなたたちよ」
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