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悟は、その紙ひこうきが落ちてきたであろう頭上を見上げた。
そこにはたくさんの窓。閉め切られているところもあれば、開け放したままのところ、割れてしまって窓としての役割を果たしていないところ、さまざまな窓。
悟の左手のボロボロのビルの5階。ひとつの開け放された窓に人影が見えた。
まさかこのさびれた通りのさびれたビルに人がいるとは思わず、悟はまた一歩後ずさった。
一息ついて落ち着いて見ると、窓から顔しか見えないほどちいさな男の子だった。
少年は悟の姿を見つめていた。
正体が少年だったことに悟は安心した。
大方、近所の子どもが管理もままならないビルを遊び場にしているのだろう。
「これ君の?」
悟は、少年に聞こえるように声をあげた。が、
「えっ?」
ふっと少年は窓から離れ、姿を消してしまった。
よれよれの紙ひこうきを手にし、廃ビルを見上げる悟だけが取り残された。
「え……どうしよう……」
悟は、手に残るそれを見つめて思わず呟いた。
あの少年のもので間違いはないだろう。
彼の姿を見て、目も合わせてしまったのに、ここに捨て置いていくのも持って行ってしまうのも気がひけて、悟はそのビルへ一歩踏み入れた。
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