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悟が5階に到着するまでそれなりの時間があった。身軽な子どもならその時間で、他の部屋へ行くなり、非常階段から逃げるなりできただろう。もしくは……
悟は壁際のキャビネットを見つめる。
上下二段に分かれているそれは、扉が閉まっていれば中が見えないタイプのものだ。
そして、小柄な子どもなら簡単に隠れられる。
「紙ひこうき、置いておくからなー!」
部屋の入口まで戻った悟は、やや大きな声でそう呼びかけると、一番近くのぼろい机の上に紙ひこうきを置いた。
そして、そのまま来た道を戻って行った。
近所の子どもがここを秘密基地にしているのであれば……それを何の関係もない大人がこれ以上踏み荒らしてはいけないと思った。
紙ひこうきを返す。悟の目的はそれだけなのだから。
廃ビルから出た悟は、最上階の窓を一度見上げて、再び帰路についた。
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