平凡、何かが芽生え始めるの章

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「すごいな敦。前とはうってかわって引っ張りだこじゃん」  昼食の時間。数多の誘いを振り切って、敦は普段通りオレたちと食堂へ来てくれた。これまでの短い休み時間をすべて他の生徒たちとの会話に使っていた敦はどこか疲れた顔で、テーブル席のふかふかとした椅子に体を沈めている。 「まあなー……。嬉しいけど、なんか複雑」 「俺も!あいつら今更なんなんだよ!」  プンプンと腹を立てながらも特大オムライスを頬張る春希。ソースはデミグラ派らしい。頬をふくらませてもごもごと咀嚼すると、傍らに置いてあった水を一気に飲み干した。 「まーまー、仲良くしてくれる分にはいいじゃんか」  そう答えつつ、湯気を立てるうどんの麺を持ち上げる。大きな海老天はもう少し後のお楽しみだ。 「けど、敦はこれから大変だろーなあ。既にモテモテだし」 「……まあでも、何かあっても俺には本命いるから」  ぶほっ、と啜ったばかりの麺が口から出ていった。そうだった。こいつそうなんだった。墓穴を掘るような話題の振り方すんなよ、オレのバカ。 「その反応、ちょっとは意識してくれてるってことでいい?」 「……な、なんか敦、ほんのり意地悪になってない?」 「結構グイグイ行かないと効かないって分かったし」  にこ、と笑った顔にはやっぱり前より圧力を感じる。まずい、グイグイ来られる。そしてグイグイ来られた時、オレには拒む自信があんまりない。 「……あ、直也。口の横にネギついてる」 「ヒエッ!!あ、ああ、ありがとう……」 「どういたしまして。ほら、春希もソースついてるぞー」 「うわぁ!?お、俺にも同じことすんのかよ!?」 「俺、春希のことも好きだからさ。いい共闘相手として」  二人分の頬をおしぼりで優しく拭ったあと、敦は楽しげに笑った。もしかするとオレは敦のとんでもない部分を目覚めさせてしまったのかもしれない。春希はオレよりずっと顔を赤くしながら、先程までより少しずつオムライスを食べ進めている。 「まあ俺も好きだけど……敦のこと」 「マジ?じゃあ両思いだね」 「りょ……!?」 「後は直也が俺たちのこと好きになってくれたら、綺麗な三角形が完成するよ」 「どういう話の流れ?」 「ははは」  再び笑い声をあげた敦を、隣の席の見知らぬ生徒が横目で見ている。……やっぱり敦は相当な人気者らしい。そんな奴がオレを好きとか、やっぱりどうしても理解できない。 「あの……一緒に座ってもいい?」 「え?あーすいません、もう食べ終わるとこなんで」  話しかけてきた隣席の生徒に軽く断りを入れ、敦はほぼ空になりかけている皿を指差す。「そっか」としょんぼり帰って行った彼らの目が一瞬こちらを睨んだ気がしたが気にしない。まあ、クラスメイトたちみたいにみんながみんな友好的になってくれる訳ないよな。むしろうちのクラスの奴らが、あっさり話しかけてきてくれるような良い奴揃いでよかった。 「……マジでモテモテじゃん」  声を潜めながら春希が言う。敦は呆れたように息を吐いたあと、「これはこれで疲れるな……」と乾いた笑みを零した。 「ま、俺は直也一筋だけど」 「そっ……それ、いちいち言わなくてもよくない……?」 「俺も!!俺もだぞ!!」 「いや乗っかんなくていいし……はず……」  オレの顔が熱くなると、二人が嬉しそうな表情をするのが複雑である。こういう時どんな反応をしていいのか全然分からない。何せ経験がないからだ。 「んー……や、でも……」 「ん?」 「まあ……敦が他の人とばっか話すようになったら、やっぱ寂しいし……。一緒にいてほしいのは、オレも、ある」  オレ一筋だのなんだのから話題逸らすため、朝から思っていたことをぽつりと口にしてみる。そうすると二人が信じられないものを見るかのような顔でオレを見つめ、加えて何も喋らないので、何か間違えたか?と変な汗が吹き出てきた。やばいどうしよう、めっちゃ恥ずかしい。弁解したい。慌てて口を開く前に、敦の口から先程より長く深い溜め息が零れた。 「はあ〜……。春希〜、今のどう思う?俺より直也のほうが全然意地悪だよな……?」 「はあ!?何が!?どこが!?」 「直也、おまえ敦が好きなのか……!?」 「な、何で!?友達としては好きだけど……」 「ほらやっぱ意地悪だって。マジで直也、そういうとこだから」 「どういうとこだよ!!」  春希にもたれかかって泣き真似をする敦も、敦の言葉にコクコク頷きまくる春希も、何もかも納得いかない。オレなんか変なこと言ったか……?よく分からないけど、口ぶりの割には不快に思われたりはしていないようだ。 「いやっ、ふ、普通に考えて、仲良い友達が別のヤツとばっか話すようになったら寂しいじゃん……。それだけなんだけど」 「そっか〜、うんうん、ありがとな」 「……な、何?」 「いや別に。ずっと一緒にいような、直也」  …………なんなんだ、この雰囲気は。
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