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「な、直也……」
「うわっ……」
朝。オレの顔を見た春希と敦は揃って顔を引き攣らせた。たぶん酷い顔をしているのだろう。それもそのはずだ、あの後全然眠れなかったのだから。早く寝ようとか言っておいてこのザマである。
「ごっ、ごめん!俺がキキキ、キスなんかしたからっ……!!」
「あ、キスしたんだ……」
おいおい春希、敦の前でなんてこと言うんだ。下手したら修羅場だぞ。と一瞬思ったが、やけに落ち着いている敦に首を傾げる。
「……え、何、もしかして知ってた?」
敦の方を向いて尋ねると、「あー」という長い声が返ってくる。困ったように頭を搔いた敦は、隣に座る春希とちらりと目を合わせ、それからやや気まずそうにしながらも口を開いた。
「俺ら、直也が風呂入ってる間に色々話して、協定結ぶことにしたんだよ」
「協定……?」
「そう。俺らは直也が……その、好きだから。だから二人で頑張ろうってさ」
「えっ」
日焼けした肌がほんのり赤らんでいる。同じく春希の白い頬も。敦の隣で首がもげそうなほど勢いよくぶんぶんと頷く春希を前に、オレはぽかんと口を開いたまま突っ立っていた。
「直也はどっちを選んでもいいし、勿論どっちも選ばなくてもいい。……あ、なんなら二人とも選んでくれてもいいよ」
「っ……!お、俺も、敦ならいい!」
──いや、シンプルに脳が追いつかね〜。
なにこの少女漫画みたいな状況。オレって実はそういう作品の主人公だった?確かにあああいう話って主人公は地味で冴えない女の子だったりするしな……。って、何を言ってるんだオレは。今はこんなこと考えてる場合じゃないだろ。
ついに明言されてしまった、二人はどちらもオレが好きだと。そして「落とす」つもりでいると。どうしよう怖い。だってこんな良い男たちに迫られたら絶対すぐ落ちちゃう。誰か助けてくれ。
「あ、あ〜……うう〜ん……」
混乱のあまり口から声にならない声が出る。それを拒絶反応か何かだと思ったのか、二人の表情が一気に曇った。違う、嫌ではないんだよ。ただちょっとオレ側の気持ちのベクトルがやや不純なだけで。でもそんなこと伝えたら絶対軽蔑されるしなあ……。
「な、直也……ごめん。もし嫌だったら今の話は忘れて……」
「いやちょっと待って!!」
「え?」
……どうしよう。春希と敦が苦しそうなのが辛くてつい割り込んでしまった。この流れで何を言う?とりあえず嫌じゃないことは伝えないと。
「い……嫌とかじゃない、から。大丈夫」
「ほんとに?無理してない?」
「うん」
二人を不安にさせたくないし、悲しい思いもさせたくない。だから、大事なことはちゃんと口に出しておかねば。
「ただ、今はちょっと恋人になる?とかは分かんなくて……」
「そ、そうだよな……」
「うん、正直エロい気分には余裕でなるんだけど……」
「えっ」
「えっ」
「あっ」
──えっ、何余計なことまで言ってんの?オレのバカ!!!!
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