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「直也、エロい気分になんの……?」
口元の引き攣った笑みを浮かべている敦の横で、春希は湯気が出そうなほど赤面しながら震えている。
「それって、もう俺らのこと好きなんじゃないの?……とか思っちゃうんだけど」
敦が身を乗り出してくる。やめてイケメンすぎる。両手を前に突き出し、慌てて目を逸らしながら、オレは早口で弁解を始めた。
「い、いやそのっ……、そういう気分になるのはなるんだけど!オレってそういう経験全然ないからさ、正直雰囲気に飲まれてるだけなんじゃないかなーって……」
「…………」
「雰囲気に飲まれて二人とそういう風になんのは……や、やっぱやだし……。その前にちゃんと好きにならせてほしいっていうか……」
めちゃくちゃ恥ずかしい故に、言葉を続けるにつれ語尾がどんどん小さくなっていく。顔が熱い。ちらりと前を見ると、まだすぐ傍に敦の綺麗な顔があって肩が跳ねた。
「……そっか、分かった。直也がそう言うなら、改めて俺らもちゃんと好きになって貰えるように頑張るな」
「お、俺もっ!直也にドキドキしてもらえるように頑張るから!見てろよな!」
「え、あ、うん……よろしくお願いします……?」
流れでそう言ってはいるが、実はまだ全然脳内が整理できていない。間違いなく平凡な一般人である自分の身に余る事態なのは分かる。……分かるけど、この先どんな風にこいつらと接したらいいんだよ!?
「……ところで、直也」
「へ?」
「俺らとキスした時も『そういう気分になった』っていう解釈でいいの?」
「バッ……お前何聞いてんだよ!!やめろ!!」
敦の背中に飛びかかった春希が、そのまま手を伸ばして敦の口を押さえる。手の平からはみ出ている目元は笑っているのだが、何故かちょっと怖い。あれ、敦ってこういうキャラだっけ……?春希がぎゃあぎゃあと騒いでくれているのをいいことに、そっと目を逸らした。──まあ、沈黙は肯定と同じなんだけど。
「直也!!エロい気分になったって全然いいんだからな!!俺らだってなるし!!」
もしかしてフォローのつもりなのだろうか。だとするとむしろダメージが入っているのだが、春希も混乱しているのだろう。それはそれとしてやっぱりエロい気分になるのか……。まあ健全な男子高校生だもんな……。しかも二人に関しては「好きな相手に対してそういう気分になる」なので、オレよりも全然健全だ。
「……とりあえず、顔洗ってきていい?」
そしてあわよくばちょっと二度寝させてほしい。寝起きの頭には色々刺激が強すぎるから。ああ、今寝たら一体どんな内容の夢を見るのだろうか。多分だけどろくな夢じゃない気がする。
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