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二度寝したいと申し出ると、敦はそれなら帰ると言い出した。「寝てる間春希と遊んでていいよ」とオレは引き止めたのだが、そうすると「直也さあ、そういうとこだよ」と呆れたような顔で言われてしまった。そういうとこってなんだよ。どこだよ。と一瞬思ったけれど、そのすぐ後に「まあ、何してもいいならこのままいるけど」と付け加えられて諸々すべてを理解した。春希は叫んでいた。
──というわけで敦には丁重にお帰りいただき、部屋にはオレと春希の二人きりだ。これはこれで緊張してしまう。今までも二人きりだったのに、その時よりずっと。
「あ、あの……春希」
「ふあっ!?な、なんだ!?」
「いや……オレもっかい寝るな?おやすみ」
「っあ、ああ、おやすみ!……俺はなにもしないからな!」
「大丈夫だって、春希はそういうことしないって分かってるから」
「うぐぅ……!」
胸を押さえた春希の顔はまだ赤い。ついでにオレも、体温が上がりっぱなしでさっきから変な汗をかいていた。起きたらシャワーでも浴びよう。
……今度こそちゃんと寝れるかな。布団を頭まで被ると、ほのかに春希のシャンプーの匂いがした。そっか、ちょっと前までこの布団で寝てたんだよな。うわあどうしよう、余計熱くなってきた。別に匂いフェチとかじゃないのに。
「直也!俺、ちょっと校内探検してくっから!」
俺の寝るベッドに向けて分かりやすい嘘が浴びせられたあと、ドアを開ける音が忙しなく響く。……自分で言う事でもないけど、お互い色々打ち明け合ったばっかりの好きな子が同じ部屋で寝てるのって緊張するよな。春希は同室だし、これから毎日似たような気持ちを味わわせるのかと思うと申し訳ない気もする。
「…………」
春希もそういう気分になるって言ってたな。そういえば。「オレで」とは言っていないけど、話の流れ的にまあそういうことなのだろう。
「……………………」
寝返りを打つと、またふんわりと春希の香りが漂ってきた。
思い返せば春希はオレに対してどこかぎこちないというか、ちょっと距離が近くなると動揺したり赤くなったりすることが多かった。てっきり誰に対しても同じようになると思っていたし、ただ照れ屋なのだろうと解釈していたが──。思考を巡らせていくうち、記憶の中の点と点が繋がっていく。どうやらオレは、結構な間彼のことを翻弄していたらしい。あの時もあの時も、恐らく春希はずっとオレを意識して照れていたわけだ。
……そう考えると春希がいっそう可愛くて可愛くて、胸の奥がきゅんとしてしまう。
「……あー、まずいな……」
この感覚は知っている。恋と非常に似ていて、でも厳密に言うと違うやつ。
布団の中で静かに瞼を閉じ、枕に顔をうずめて、オレは置き場所に困っていた手をそっと下腹部に滑らせた。
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