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平凡、何かが芽生え始めるの章
いつも通りの教室。いつも通りの面子が机を囲んでいる。が、オレを見る春希と敦の表情は明らかに変化していた。なんか柔らかくなったというかかっこよくなったというか……いや、オレが勝手に意識してるだけなのかもしれないけど。でも会話の内容は普段と同じで、そこは少し安心する。これでいいのかっていう気持ちもあるけど、少なくとも今の二人は楽しそうだから、もう少しだけこのままで。
──なんて思っていると、先程からちらちらとこちらを見ていたクラスメイト数名がこちらへ向かってきた。
「あー……須藤、おはよ」
「おはよう、須藤くん」
一瞬きょとんとしたあと、そういえば、と例の三人組の言葉を思い出した。昨日まで休みだったのにしっかりと根回しが成されたらしい。オレと同じく驚いていた様子の敦が「おはよう」と爽やかに返したのに安堵の表情を浮かべたあと、生徒たちは座っているオレと春希のほうへ顔を向けた。
「えっと……桜庭と、中村?」
「中谷です」
「あっごめん!その、二人も……おはよう」
「よく間違われるから気にすんな。おはよう」
「……はよ」
急に接触してきたクラスメイトの態度に納得がいかないのか、春希は頬杖をついたままぶっきらぼうに返した。オレもまあ戸惑いはあるけれど、恐らく敦のついでとはいえオレたちにも歩み寄ってくれたのは嬉しい。なんせこれまでクラスで孤立しまくっていたのだ。春希も悪い奴じゃないし、このまま友好的に接してくれればすぐに打ち解けられるはず。そしてゆくゆくは更に楽しい学園生活が……。フフフ。
「ねえ、君たちっていつもどんな話してるの?」
傍らからおずおずと、ふわふわとした髪の毛の小柄な生徒が話しかけてくる。その横で活発そうな生徒が「それ俺も気になってた、なんかいつもすげえ盛り上がってるし」と声を上げたのをきっかけに、気づけばオレと春希の机の周りは人でいっぱいになっていた。
「えっ、別に普通だよ。最近は野菜を戦わせたらどれが一番強いかみたいな……」
「な、なにそれ……!?全然普通じゃないしめちゃくちゃ気になる……!」
ふと口に出したことに予想以上に食いつかれてしまい、素直に焦る。野菜の強さランキングってそんなに気になるかな。確かに話してた時は大盛り上がりの大議論になったけど、話し終わってみたらみんな我に返って真顔になってたし。……でも、彼らも男子高校生。こういった「くだらない話題」は大好物のようで、その後は結局野菜の強さについて再び議論を白熱させることとなった。美形たちがこういう話題で目を輝かせているのは面白いし、なんだか可愛らしい。その後教室に入ってきた松崎先生はぎょっとしてたけど。
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