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というわけで今、オレはネコミミをつけてミニスカメイド服に身を包んでいます。芦屋くんの衣装がピンク色なのに対して、オレのはネイビー。女の子の服なんて当然初めて着るから手間取ったけど、芦屋くんが教えてくれたのでなんとかなった。
「う、うおお……」
頭にはフリルとネコミミつきのヘッドドレス。首にはリボンと小さな鈴のついたチョーカー。胸元は結構大胆に開いていて、パフスリーブやふわふわ広がるスカートが男性的な体のラインをうまくごまかしている。エプロンの結び目あたりから伸びるしっぽが膝裏に触れて、一瞬びくっとなった。
「中谷、最後にこれ」
差し出されたのはモコモコの……これなんて言うんだっけ、ドロワーズ?と、ボーダー柄のニーソックスだ。どちらも繊細なレースやリボンがついていて、細部まで隙のないこだわりを感じる。
「ありが……えっ!?」
「……?どうした?」
それらを受け取るために振り向くと、そこには見事な美少女が立っていた。美少女というかまあ、芦屋くんだけど。薄いピンクのメイド服を見事に着こなしていて、衣装の甘いデザインが彼の端整でありながら幼さもある顔立ちをとてもよく引き立てている。
──か、可愛い。めちゃくちゃ可愛い。元々色白で細身なのか、女装の違和感が全然ない。ちょっとドキドキするまである。ぼーっと見惚れていると、芦屋くんはスカートの裾をつまみながら、少し照れたように顔を伏せる。
「スカートって、足の間スースーすんな」
「あ……そ、そうだよね!オレも思ってた!」
ハッとして顔を背け、渡されたドロワーズに足を通す。それから靴下も。そうして完成系になったオレは、改めてネコミミメイドと化した芦屋くんと向き合った。
「…………」
「…………」
「……中谷、やっぱ似合ってんな。可愛い」
「へあ!?いっいや、芦屋くんのがめっちゃ似合ってるって!ちょっと可愛すぎてびっくりしたし!!」
「そ……そうか?」
白い頬がほんのり赤く染まる。
「作ったからには誰かに着て欲しいって、ずっと思ってたんだけどさ……。まさか自分で着ることになるとはな。中谷も、着てくれてサンキュ」
「いやいや……へへ、やっぱちょっと恐縮しちゃうけど……」
「なんでだよ、可愛いって。服も喜んでる……と思う。オマエの言葉を借りると」
ふっと優しく微笑まれて、オレの中の男子高校生の部分がギュンと盛り上がる。ちなみに下ネタではない。嬉しそうな芦屋くんはオレの方に一歩歩み寄ると、「な、もっと近くで見てもいい?」とこちらを覗き込んできた。反射的に首を何度も縦に振る。
「ん。……で、中谷にも、オレのこと見て欲しい。オレの、最高傑作」
首元の鈴がちりん、と音を立て、長い前髪の下の鮮やかな瞳と目が合う。そのとろりとした輝きに思わずめを奪われているうち、胸の大きなリボンにそっと手が伸ばされた。……どちらかが動くたび、柔らかな布と布が擦れる音がする。
──あ、ヤバい。また変な気分になってきた。
思考を逸らそうと周囲を眺めていると、ふとクローゼットの横に置かれている姿見が目に入る。そこに映っているのは、フリフリの衣装に身を包んだ自分たちで。ヘッドドレスのリボン、エプロンの紐、その間のしっぽ。フリルのたっぷり縫い付けられたスカート。そのすべてが揺れるのと同時に、心臓が大きく跳ねる。
……これは、何だかいけないことをしているのでは?
オレは「着て欲しい」と言われた服を着ただけ。芦屋くんもまた、オレが着て欲しいと言ったからこの服を着ている。その行為自体は何もおかしなことはないのに、女装というだけでこんなにも……なんというか、ドキドキするのか。
「中谷、前髪下ろしてほしい。そっちのが似合いそう」
「え……や、それはちょっと……恥ずかしい……」
「……ダメか?」
「う……」
大きな瞳で見上げられると逆らえない。指を櫛のようにして前髪を解すと、その隙間から満足気に笑んでいる芦屋くんの顔が見えた。
「やっぱり良くなった」
「ううぅ……」
「そうだな……次は鳴いてみるか?」
「え?な、鳴く?」
「ネコだろ?だから、『にゃあ』って」
「ッ……!!も、もう一回」
「……?にゃあ」
「クッ……!!」
言葉では表せない感情に悶えているオレに、芦屋くんはクールに「お前も言えよ」と急かしてくる。正直恥ずかしいことこの上ないが、いいものを見せてもらったお返しにオレも言わねばなるまい。覚悟を決めよう。
「にっ……、にゃあ」
「……ふ、もう一回」
「にゃあ……」
……なんだこれ。やっぱめっちゃ恥ずかしい。この場に芦屋くんしかいなくてよかった。
「あの……そろそろ限界なんで着替えてもイイデスカ……」
「限界……?」
「あっいや、芦屋くんの衣装がダメとかじゃなくて!!純粋に男としての羞恥心とかその他諸々がその、ね!?」
「……っふは、冗談だよ。オレもそろそろ満足したし、着替えるか」
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