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「ちょっと校内探検してくるわ」と言いつつ数時間後に帰ってきたオレを春希はやはり心配していたようで、帰ってくるなり焦った様子でどこへ言っていたのかを聞かれた。あと紙袋の中身も。オレはそれに「この後敦とメシ食う時に話すから」と返し、いつも通りに食堂へ向かった。
「なあ直也、お前が芦屋とにゃんにゃんしたって聞いたんだけど」
「ブフォッ!!」
──で、オレが諸々説明する前に敦から言われた言葉がこれである。にゃんにゃん、ある意味正しい表現ではあるけれども、語弊しか産まない。なんてこと言ってくれたんだ芦屋くん。むせて咳を連発する口元を押さえて、味噌汁の椀を置く。俺はなんとか落ち着いたけど、春希はまだむせていた。死にかけかと見紛うほどに震えながらゲホゲホと咳き込んでいる。
「ゲホッ、な、直也……!ににに、にゃんにゃんって……!?」
「いやあの、それは……色々あって……」
「へえ、色々ナニしたの?」
めちゃくちゃ目が怖い。これ絶対誤解されてるやつだ。蛇に睨まれたカエルのような気分で、芦屋くんと行ったことについて慌てて話す。そうすると、怖い雰囲気だった敦も、動揺していた春希も「ネコミミメイド服……?」と背後に宇宙を広げていた。いきなりこんなこと言われても混乱するよな、分かる。
「で、紙袋の中身はそのメイド服と、一緒にもらったぬいぐるみでー……。決してやましいことをしたわけでは……」
無意識にもじもじと指が動く。やましいことをした……わけではないはずだ、ただ女装して軽く触れ合っただけだし。……いややましいな。改めてまとめてみるとやっぱりやましいかもしれない。
「なるほど……」
オレの話を聞いたあと、敦は俯いて何やら考え込んでしまった。かと思えばすぐに顔を上げ、オレの目をまっすぐに見つめてくる。
「じゃあ直也的に、女装は健全な行為ってわけだ」
「えっ」
「あ、敦……?何言ってんだ……?」
「……てことは、俺らにも見せてくれるんだよな?」
「敦!?」
爽やかに言ってのける敦の横で、春希がテーブルに手をついて立ち上がる。すぐにハッとして座り直したけど。
……ていうかオレ、今なんて言われた?「俺らにも見せてくれるよな」って?それは即ち、敦と春希の前でもう一度あの服装をしてくれという意味だろうか。いや無理無理無理無理。春希に着せようとしてた癖に何言ってんだって感じだけど、芦屋くんはともかくこの二人の前で着たら恥ずか死ぬ。やっぱり春希に着せようとしてたオレが言えたことじゃないけれども。
「い、いや、それは……」
「春希も見たくない?直也のメイド服」
「え!?そ、そりゃ……」
敦に尋ねられ、春希は真っ赤になって何かをごにょごにょ呟くだけになってしまった。敦にはその呟きの内容が聞こえているのか、それとも勝手に解釈しているのかは知らないが、うんうんと頷きながら春希の背を撫でている。
「……てことで、この後部屋行っていい?」
──にっこり。
向けられた笑顔に、オレはただ、引きつった笑みを返して頷くしかなかった。
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