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仕切りのカーテンを背に、一枚ずつ着ていた服を脱いでいく。芦屋くんに教えて貰いながら着替えた時も緊張したが、今はその何倍も鼓動が速い。記憶を探りながらフリフリふわふわのメイド服を身につけると、頭にネコミミを乗せ、靴下を履き、腕にカフスを巻く。──体がじりじりと熱い。スカートの中の心許ない空間を埋めるように膝を擦り合わせると、オレはすうっと息を吸って、覚悟を決めてカーテンに手をかけた。勢いよく開いた厚い布の向こう側に、春希のベッドに腰掛けて待っていた二人の姿が見える。
「……着たけど」
恥ずかしさで爆発しそうになりながら呟くと、二人分の瞳が丸く見開かれた。春希は眉を下げ、見慣れた赤い顔でふるふると震えており、敦は放心したように口元を手で覆っていた。何か言えよ、と縋るように心の中で叫んだところで、薄く開かれていた春希の口から「か」という一文字が零れた。
「……か、可愛すぎるだろ……っ!!」
全力で絞り出されたその言葉に、また体が熱くなる。そりゃあ可愛いだろう、芦屋くんが魂を込めて作った服は。オレに似合ってるかはともかく。……そう、これは服の力だ。服の力……。言い聞かせるように胸中で何度も唱えていると、しばらく黙っていた敦もやっと口を開く。
「……想像以上だった」
その頬はほんのり赤い。あ、こういう感じ久々に見たかも。そんなことを考えながら、同時になんとかこの服をなるべく早く脱ぐ方向に会話を持っていこうと思案する。
「じゃあ、はい!見たってことでもう終わりな終わり!」
「え、なんで?もっと見せてよ」
「なんでだよ!敦のスケベ!」
「好きな子のこういう姿なんて、必死になってでも見たいもんだろ」
「な゛っ……」
語気の強さで押し切るつもりが真っ直ぐに言われ、思考が停止する。手を引かれてとすんと春希と敦の間に腰を下ろしたオレは、また胸の奥がよくない方向に疼いているのを感じていた。
「な、直也……!似合ってる……ぞ……!」
「え……あ、あぁ、ありがと。でも春希の方が──ひぅっ!?」
急にビクッと体が跳ね、喉から自分でも聞いたことがないような声が飛び出す。突然のことに驚きながら何かが触れた腕の方を振り向くと、オレと同じく驚いた顔の敦がいた。
「あ、ご、ごめん……。この尻尾、どんな感触なのかなって気になって……」
スカートに縫いつけられた尻尾を持ったまま、敦がやや早口気味に言う。さっき腕に感じた妙な感触は、この尻尾の先がオレの腕をくすぐったのが理由らしい。
「えっと、いや、大丈夫……」
声が上擦る。やばい、引かれてたらどうしよう。あんな声初めて出した。
「なんか……変な声出しちゃってごめん……」
尻すぼみになりながら頭を下げると、チョーカーについた鈴がちりんと鳴る。室内はしんとして、何だかおかしな雰囲気になっていた。春希も敦も喋らずに、ただオレの方をじっと見ている。……そして、その視線がオレの体を撫でているみたいに全身がくすぐったい。知らぬうちに呼吸が早くなる。
「直也、ごめ──」
何かを言いかけた敦がオレの肩に手をかけたとき。
ピンポーン、と、インターホンの音が部屋に鳴り響いた。
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