猫拾い

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 私は今日の接見記録のファイルを閉じ、パソコンを落とした。  知らず、苦笑いが顔に浮かんでいた。  弁護士をしていると、ああいった精神状態が不安定な被疑者と向き合うことも少なくない。まずは精神鑑定を受けさせ、その結果からどう攻めるかを決めていこうと考えていた。  まぁ……心神耗弱による減刑は確実だろう。  自室を出て秘書に声をかけ、今日は仕事を切り上げた。  事務所を出ると気持ちよく晴れた空は赤く染まってきていた。  事務所隣の駐車場に停めてある車に乗り込み、家路を急ぐ。  今日は少し早く上がれたから、こんなときくらいは私が夕食の支度をしようと思っていた。  自宅に帰りつくと、駐車場には私の車だけだった。  やはり先に帰れたようだ。  スーツから部屋着に着替え、キッチンに向かうと冷蔵庫を開く。  食材をあれこれと取り出していると、玄関ドアがガチャガチャと解錠される音がした。  ドアが開いて、家の中の空気が動く感覚がする。そして、 「ただいまー。加奈子、今日早かったんだね」  と夫が玄関から声を掛けてきた。  私はひき肉のパックを見下ろしながら、 「おかえり!そうなの、だから今日はハンバーグ……」 「それより、ちょっとおいでよ!見せたいものがあるんだけど」  やけに夫の声が弾んでいる。私は笑って、 「何?もう料理に取り掛かってるんだけど」 「びっくりさせちゃうけど、あのさ、猫拾っちゃった。加奈子も猫好きだったよね?」  笑ったまま、自分の顔が強張るのを感じた。  ゆるゆると、開け放たれたままの廊下に繋がったドアに顔を向ける。  ――そちらから、あんなに晴れていたのに、なぜか湿った雨の臭いが漂ってきた。 ―終―
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