桃を食べたのは誰だ

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     私たちの学校の美術室は、校舎の一番奥。薄暗い廊下を抜けた先に位置している。  美術の時間以外に行くことはない美術室へ、こうして放課後に向かっているのは、課題提出のためだった。美術の時間内に終わらなくて、残りは宿題みたいな形になっていたのだ。  目的の美術室が見えてきた辺りで、隣を歩く友人に声をかける。 「ありがとう、紀子(のりこ)。わざわざついてきてくれて」 「礼には及ばないわ、恵美(えみ)。いつも一緒に帰る仲でしょう?」  紀子は私みたいに不器用ではないから、美術の課題は、きちんと美術の時間に終わらせていた。用事もないのに、私に付き添ってくれているのだ。  それに、もう一つ礼を言うべき点があった。  美術のような特別な教科の教師は、担当科目が終わったら帰ってしまうかもしれない、と私は思っていたのだが……。今日は美術部の活動曜日だから青木(あおき)先生は美術室に残っているはず、と教えてくれたのも紀子なのだ。  その情報がなかったら、私は今日中に提出しに来なかったかもしれない。でも、また「礼には及ばないわ」と言われそうだから、こちらに関しての「ありがとう」は敢えて口にしないでおこう。    
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