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美術室の扉は閉まっていたが、鍵は掛かっていなかった。
トントンとノックして、私が中からの反応を待っている間に、
「失礼しまーす!」
大きな声で挨拶しながら、紀子が勝手にドアを開ける。早く用事を済ませて帰ろう、と私を促しているのだろうか。
美術室に足を踏み入れると、誰もいなかった。まだ美術部の生徒も来ていないし、肝心の青木先生の姿すら見当たらない。
ふと隣を見れば、課題を提出しに来た私よりも、付き添いの紀子の方が残念そうな表情を浮かべていた。紀子の情報がなければ私は来ていないわけで、無駄足を踏ませたことに罪悪感を覚えているのだろうか。
「おかしいね? 灯りは点いてるのに……」
彼女の言う通り、部屋の中は明るかった。元々ここは倉庫か何かだったらしく、普通の教室みたいな大きな窓は設置されていない。採光用らしき小窓が一応ひとつ上の方にあるけれど、それだけでは足りないから、もしも照明が消えていたら暗くなってしまうのだ。
「ちょっと中座してるだけじゃないかな? ほら、あれ!」
紀子に答えながら、私は中央のテーブルを指さす。そこには白いお皿が置かれていて、バナナや林檎などの果物が載せられていた。
「あら、ホントだ。美術部の子のために、おやつを用意したのかしら?」
紀子は時々、頓珍漢なことを言う。
美術部の生徒が美術室で果物に齧り付いている姿なんて、私には想像できない。おやつにするなら、クッキーとかチョコレートみたいなお菓子だろう。
素直に考えれば、美術室の果物は……。
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