桃を食べたのは誰だ

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    「おやつじゃなくて、デッサン用じゃないの?」 「ああ、なるほど。今まで私、デッサンに使うのは、食品サンプルみたいな偽物かと思ってたわ。ほら、プラスチックとか蝋とかで、本物そっくりに偽装したやつ」  それを言うなら「偽装」ではなく「模倣」だ。そう思ったが口には出さず、別の点を指摘する。 「わざわざ食品サンプル用意するの、かえって大変でしょ。お金もかかりそうだし」 「それもそうね。でも、描くだけで終わりにするのも勿体ないわ。こんなに美味しそうな果物……」 「いや、描いた後は捨てるんじゃなくて、食べるんじゃないかな? ほら、バラエティ番組のテロップで見かける『この後スタッフが美味しくいただきました』みたいに」 「だったら、やっぱり美術部のおやつになるのね!」  私と紀子がそんな会話を交わしていると、扉の開く音が聞こえてきた。ただし私たちが入ってきたドアではなく、壁の片隅に設置された小さな扉。美術準備室に通じるドアだった。 「おや、君たち……」  準備室から出てきたのは、美術の青木先生だ。いつも通り、頭はボサボサで、体にはヨレヨレの白衣を羽織っていた。 「はい、課題の提出に来ました!」  私より先に紀子が答える。課題を出しにきたのは彼女ではなく、私の方なのに。  軽く心の中でツッコミを入れながら、私が課題の絵画を手渡すと……。 「うん、ご苦労」  そう言いながら青木先生は受け取ってくれたけれど、テーブルの上に視線を向けた途端、表情が変わった。  睨むような顔を、私と紀子に向ける。 「おい。桃を食べたのは君たちか?」    
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