桃を食べたのは誰だ

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    「桃……?」 「そうだ。私が用意しておいた桃が、いつの間にか消えている!」  怪訝な顔で聞き返した私に、興奮した口調で青木先生が応じる。  改めて果物の皿に注目すると、今そこに盛られているのは、赤い林檎と黄色い林檎、紫の葡萄に黄色いバナナ。なるほど、よく見れば林檎がもう一つ置けるくらいのスペースが、不自然に()いている。元々は、そこに桃があったのだろう。 「私が準備室に引っ込んでいたのは、ほんの短い時間だ。君たちの話し声が聞こえたから出てきたら、桃がなくなっていた。ならば君たちが疑われるのは当然だろう?」 「待ってください。私たちじゃありません。私たちだって、今来たばかりですから……」  完全に濡れ衣なので、まずは否定する。  視界の片隅で、紀子が涙目になっているのが見えた。ここは、私がしっかりしないといけない場面だ!  改めて頭の中で状況を整理してみる。  校舎の奥に位置する美術室であり、私たちが来る途中、近くで誰も見かけなかった。つまり、私たちに前後して美術室に来た者も、美術室から帰った者もいなかったはず。ならば……。 「犯人は、窓から出入りしたんじゃないでしょうか?」  思いついた推理を口にしてみるが、アッサリ否定されてしまう。 「馬鹿を言うな。あんな小さいところから、誰が出入り出来るのだ?」  先ほども説明したように、この部屋には通常サイズの窓は存在しない。採光用の小窓だけだ。  見上げて確認すると、今は開いている様子だった。しかし、わざわざ見上げる必要があるくらい、高いところに位置しているから、出入りには向いていない。  いや向いていないどころか、そもそも青木先生が言う通り、あの大きさでは小柄な女子生徒でも(くぐ)るのは不可能だ。 「そうですね。確かに……」  と、同意の言葉を口にしてしまった瞬間。    
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