第一章 出会い編 /side:柴田

9/17
前へ
/109ページ
次へ
 何度も頭を下げるママさんを二人並んで見送る。  今日はこの場で終われたことにホッと肩を下ろした。それにしても、なんて偶然なんだろう。再び人助けでご対面するとはね。  俺より頭ひとつ背の高いさらさらヘアのツバキさんを見上げると、彼はギチギチと音が聞こえてきそうなぎこちない笑顔で話しかけてきた。 「……また、会ったね。偶然、偶然だよね! あ、あの、俺、椿! 椿陸人(つばきりくと)って言うの! きへんにはるの椿だよ。あ、あの……」  ん? 自己紹介?  何も知らない椿さん。なんだかちょと優越感? 思わず笑いが込み上げる。今日会ったのはこれで三回目。ふふ、実は俺。既に椿さんの苗字も知っちゃってるんだよね。  名前を告げ黙ってしまった椿さんに、俺は自分から名乗った。 「ホント偶然ですね。椿さん。俺は柴田って言います。柴田彰宏(しばたあきひろ)。よろしくね」  椿さんへ手を差し出す。椿さんは俺の手を握り笑顔で首を傾げた。 「柴田さん? 彰宏さん? 柴ちゃん? あっくん?」  人懐っこいのか、慣れてないのか、強引なのか、遠慮しいなのか、よくわからない人だ……。 「どれでも大丈夫ですよ」  確かに言えるのは人がいいってこと。あと……オシャレさん?  耳にはピアス。首からはシルバーのネックレスがぶら下がり、黒いロングTシャツが覗く程の、ザックリした編み目のVネックセーター。ジーンズもヴィンテージ風って言うの? 茶色のブーツもごつくて強そう。いろいろこだわっていそう。仕事着のニッカポッカもカラーバージョンあったもんな。  自分がファッションにあんまりこだわりがないだけに、そう見えるのかもしれないけど……少なくとも俺より断然オシャレさんなのは確かだと思う。だって俺、服は基本マネキンの着てる服を一括買いだし。  ふと椿さんと目が合い、慌てて視線を外した。  やばい変に思われたかな? なんか俺、まじまじ見ちゃってた? 握手した手もそのままだし……。公道で人の往来のある中、握手したまま見つめ合う男二人。この図はハタから見てもなかなかの異様さがあると思われる。……どうしよう。  ハッと映画の券を思い出す。まさに閃きの『!』マークが俺の頭上にピコンと飛び出した感じだ。握手した手を広げ、愛想笑いで「もういい?」と言うように、握られたままの手をほんの少し持ち上げた。離してくれた手でカバンからゴソゴソと財布を出し、映画の券を椿さんへピラりと見せた。 「コレ、よかったらどうぞ」 「え? 映画?」
/109ページ

最初のコメントを投稿しよう!

301人が本棚に入れています
本棚に追加