第一章 出会い編 /side:柴田

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 差し出した映画の券に、戸惑っている様子。  まぁ、自己紹介を終えたばかりの人に、いきなり映画のチケットなんて渡されても。そりゃそうだよね? 新聞屋の勧誘じゃないんだから。迷惑だったかも。もしかしたら、映画とか興味ないかもしれないし……。ちょっと一方的過ぎたかな?   考えてると、椿さんが尋ねた。 「……あっくんは? この映画観ないの? 招待券って無料なんでしょ?」  あぁ。俺を気にしてくれたんだね。なるほど、そういうことか。  安堵した俺は更に財布からもう一枚のチケットを取り出した。 「二枚あるんです。友達が彼女と行く予定だったらしいんだけど、なんかダメになっちゃったみたいで。だから二枚。俺は自分のがあるから。よかったらって思ったんだけど、映画とか興味なかったです?」  なんとなくバツが悪い。  照れ笑いしながら、出してしまった二枚のチケットを財布にしまおうとしたら、ガッ! と勢いよく手首を掴まれた。 「あるある! 興味あるある! 行くの? 今から? もし、そうなら、そんなら俺もいっ、いっ、一緒に……っ!」  迷惑だったのかって思っていたのに、いきなりの食い付きようにマジにビビッた。でも、もしかして俺の態度が椿さんに気を使わせちゃったのかもしれない。そう思って、自分なりに意識してふわりと微笑んでみた。 「じゃぁ、行きましょっか。一緒に。どーせ俺もひとりでしたから」  映画を見ること自体はひとりでも、いや。どーせ観始めたら、お一人様の世界になるんだし。なんて思ってはいたけど、まぁ、同じものを観てその感動を誰かと共有するのも悪くないのかもしれない。 「う、うんうん! 行こう! 行こう!」  なんだか不思議な出会いだな。なんて思いながらも隣を歩く椿さんをちらっと見ると椿さんはいぶかしそうに俺を見てた。  やっぱ変なヤツって思われてんのかも……。 「……あっ、この前のばーちゃんと……ごめんね? お米任せちゃって! 重かったでしょ?」  目があった椿さんはパッと目をそらし、話題を切り出してきた。話題はこの間のおばあちゃんの話。偶然の一回目。  えぇえぇ。あなたのおかげで、俺の予定狂いまくりでしたよ? でも、予期せぬ想定外の出来事も、実は悪くなかったんです。  なんて。いきなりそんな話をしても、きっとこの人にはハテナだろう。 「まぁ、十キロですから」  とりあえず当たり障りのない返答をした。  あの後何があったかは、またおいおいゆっくりと話せばいいしね。
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