第一章 出会い編 /side:柴田

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「はー美味かった! 行こうか?」  おしゃれレストランでの食事が終わると、椿さんは席を立ち当たり前のように伝票を持って立ち上がった。レジで財布からチャチャッと札を出し支払ってしまう。レジで表示された金額の半分を椿さんに向かって手渡した。 「釣りはいいです。少ないし」 「へ? いいよ。映画の券奢って貰うし」  椿さんはキョトンとしてる。自分が支払うのが当然って顔。  えらく気前のいい人物なんだな。 「いいの?」 「うんうん! 行こうよ」 「あ、ありがと……。映画の券は貰い物だし、気にしなくていいんだけど……」 「ふははは。だって一人じゃ絶対観ないもん。あっくんと二人だから観れるんだよ? 映画館なんて何年ぶりだろー。超楽しみ~!」  すごい勢いでペラペラとまくし立てる椿さんに圧倒されながら「はぁ」なんて曖昧な相槌をうちつつ、奢ってくれるってんなら、奢って貰えばいいか! と財布へお札を戻しちゃうちゃっかりな俺。これは椿さんの好意だから、ありがたくね。  映画館方面の道を散歩がてらのんびりと歩きながら考えた。  椿さんってやっぱりいい人だ。いやいや、いくら現金な俺とは言え、奢ってもらったからじゃなくって。  なんて言うのかな……。終始機嫌よくニコニコして、そんな彼を見ているとこっちもなんだか気分がよくなる。うん。そんな感じ。  第一印象に続いて今日の出会いはその ” いい人 “ っぷりがなかなか強引で、正直ちょっと困りもしたけど。きっと根っからの ” いい人 “なんだね。俺の残しちゃったピザも美味しそうに平らげてくれたし。  大通りまで出てタクシーを拾う。予定では映画館まで乗っていく事になっていたのに、過ぎ行く景色の中、ゲーム屋さんを見つけた俺が「あ」と思わず声を漏らしたら「降りる? すみません。ここでいいです!」なんて、椿さんはわざわざ途中でタクシーを降り、ゲーム屋にも寄ってくれちゃった。  まんまと懐かしの中古ゲームをゲット。手にした袋にチラリと視線を落とし、ニンマリ笑みがこぼれちゃうのを我慢する。大人がゲーム買ってウキウキはさすがにちょっと恥ずかしいかなって。なんでもない表情を作って隣の椿さんを見ると、ほら、またニコニコしてる。  そんな椿さんにつられて、さっきとは違う笑みが頬を緩ませる。椿さんが穏やかな口調で話しかけてきた。 「ゲーム好きなんだ?」 「えぇ、まぁ。椿さんは? ゲームとかしない?」 「小学校とか、中学の時はよくやったなぁ〜。でも、最近あんまりゲームショップとか見ないよね?」 「ダウンロードが当たり前だもんね。椿さんは? 休みの日とか何してんです?」 「俺?」
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