第一章 出会い編 /side:柴田

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 椿さんは腕組みして、うーんと首を捻りながら空を見上げている。 「最近、朝起きられないから早朝野球も行ってないし……。なんだろうなぁ~……うーん……あ! 読書! って、漫画だけど……」 「あはは、俺も漫画好きですよ」 「ふははは。良かった! あ、後はねー、実家が食べ物屋なんだ。だから俺も、割と自分で料理するのは好きかなぁ~……つっても、美味いかどうかはわかんないけどね!」 「へぇ、すごい。料理とか全然しないもんなぁ〜。得意料理とかあるんですか?」 「得意……麻婆豆腐と、餃子かな? 餃子はめんどうだからなかなか作れないけどねぇ」 「餃子……確かに大変そう」 「一人だとモチベーション上がんないんだよねぇ。誰かにご馳走するってのがないと。なかなかねぇ……あ、そうだよ。あっくん食べてくれるなら、俺作るよ。餃子」 「えっ! ホントっすか……。んじゃぁ、またの機会にでも是非」  知り合って間もない相手から、いきなり料理を作ってあげる。なんて言われ正直ビックリしたけど、まぁこれもよくある社交辞令でしょ? 挨拶みたいなもんだろ。とニッコリと微笑み、俺もお愛想で返した。するとなんと、椿さんの足がピタリと止まり、みるみるうちにパァァァァと輝くような表情になった。同時にサッと取り出される携帯。 「じゃ、じゃあ、アドレス交換しよ! 出して出して!」 「……え……」  社交辞令じゃないのかよっ! なんだか変な事になってきてしまった。いいのか? いい人そうとは言え、よくわかんない奴にアドレス渡して……って、よくわかんない奴とご飯食べて、映画も観にいくんだけれども……。  ネット上での相手なら「フリーアドレスでいい?」とかサラリと言えちゃうけど、ガッツリ目の前で食いついてる相手に、その言葉を言うのが申し訳ないような妙な気まずさ。でも、おばぁちゃんの件にしろ、今回にしろ。椿さんが悪い人間じゃないのは明確だし。なにより、このあと映画を観に行くのに気まずくなるのもめんどくさい。  俺は携帯を取り出した。  またもや道の真ん中で携帯を突き合わせる男二人って……。
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