それはあまい秘密

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 椿さんはもう片方の手で頬を包むと、両手で優しく撫でてくる。  もー、せっかくモードチェンジさせたのに。ったく。こんな甘ったるいこと、よくできるよね。  付き合う前の椿さんからは想像もできなかった姿。このモードの椿さんを苦手と感じるのは、やっぱり惚れちゃってるからなんだろう。いつもの余裕が保てなくなってしまうのが怖い。  椿さんはそんな俺の目の奥を真っすぐ見つめ、優しく追い打ちをかけてくる。 「偶然は必然だって。これはきっと運命なんだって。奇跡なんだって。そう思ったら勇気が出たんだ」  プロポーズみたいにロマンチックな言葉。  奇跡で運命……か。俺は奇跡なんて信じてないけど、椿さんの偶然が必然ってのはわかる気がする。今に至る過程での偶然は起こるべくして起こる。俺達はその偶然を一つ一つ逃すことなく掴んで来た。だから今の俺たちがある。それこそが必然って証なのかなって。  椿さんがニッと笑顔になる。顔が近づいてきて、俺の口にチュッと軽いキスをした。 「偶然がグイグイ背中を押してるのは感じてた。だから、ストップ掛けてても、結局、ゴー! しちゃったんだよね」  ストップかけたかけたと言い張る椿さん。いつどのタイミングでかけていたのかは知らないけど、椿さんのデレデレした言葉。俺、結構聞いてたよ?  それに……。 「椿さんはそう言うけど、あの日。確実にあなたのブレーキ壊れてたから」 「……へ? なにそれ? ど、どういう意味?」  椿さんのギョッとした顔に、また笑いが込み上げる。 「いえいえ、まぁまぁ」  俺はソファの上で膝を抱えると、首を軽く振り「なんでもないよ」と誤魔化した。 「え? え? ちょ、教えてよ! 俺、なんかした? いつ?」  無言の俺ににじり寄り「言いなさいよ」と腕をうるさく揺すってくる。  もー、ホントうるさいんだから。  グラングランと揺すってくるその腕を逆に反対の手で掴んだ。今度は俺が腕を絡ませる。それを支えに、テーブルへ手を伸ばし食べかけの板チョコを取った。三分の一程めくれた銀紙から覗くチョコレート。それをパキッと半分折り、答えの代わりに椿さんの口の中へ入れてやった。 「ふがっ」 「秘密」  忘れられない……ね?
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