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さて、家に帰ってなにしよーかなー。
ウキウキ心を弾ませている時だった。歩道橋を登ろうとしているおばあちゃんが目に入る。大きな荷物を重そうに両手にぶら下げ、丸くなった背中を更にかがめながらヨタヨタと歩いている。
って、ソレ……どう考えても無理でしょ……。
気がつけば、俺の足は勝手におばあちゃんへと向かっていた。
「……あの」
丁度俺が声をかけ、おばあちゃんが振り向いた時だった。やけに騒がしい声に顔を向ける。サラサラした明るい髪。紫色のニッカポッカを履いた派手な男がちょっと離れた所から、俺と同じようにおばあちゃんに声をかけてきた。
あ……、この人も?
ニッカポッカ君も俺よりも頭ひとつ分背が高くて、こちらも細身のマッチョ系。肘辺りまで捲っている袖から伸びる腕は太くて引き締まっていて、筋が浮き上がっている。
インドア派の俺とは真逆の、見事な褐色の肌。ゴツくはないけど、なかなかのたくましさ。俺の身長は百七十くらい。長身とは言えないけどチビではないと思ってる。でも、いかんせん筋肉面で言うと正直、残念なほどない。まぁ、そこは仕方がないんだよ。だってこっちとら仕事は基本デスクワーク。相棒はパソコンだし。俺自身、お家大好き人間だし。そんなワケで、逞しい彼が助けるというのならそれに越した事は無い。俺なんかよりずっと適任といえる。
もう大丈夫だよね。そう思った俺はおばあちゃんに微笑んで、「じゃあ、……俺はこれで」と挨拶し、駆け寄ってきたニッカポッカ君に会釈してその場を立ち去ろうとした。
「ちょ、ちょっと待って!」
いきなりガシリと腕を掴まれ、振り返る。ニッカポッカ君だ。なんで?
「これ、これ持ってあげてよ!」
「はぁ……えらい、すんません。ちょっと階段が急やの~……」
階段を見上げ、ボソボソ言うおばあちゃんの荷物を両手に取りそのひとつを俺に押し付けてくる。ニッカポッカはもう片方に荷物を持ち、空いた手でおばあちゃんの手を握った。
「ばーちゃん、向こう側まで一緒に行こうよ。ね?」
荷物を押し付けられ、フリーズしている合間にあれよあれよと話が進んでいく。
なんて強引なニッカポッカなんだ。
……仕方ない……か。手伝うつもりで声を掛けたのには違いない。荷物が一個で済んだだけでも良しとすべきか。
心の内で「ふぅ」とため息を落とし、前を行く二人に続いて歩道橋を登る。
ニッカポッカは顔をくしゃっとして、絶えずおばあちゃんに話しかけてる。それを見ながら思った。
まぁ、いい人……なんだろうなぁ。強引だけど……。
二人の寄り添う光景を俺はぼんやり眺めていた。
しかし……重いな……。
一体何が入ってるんだと風呂敷から覗く白い物体に目を凝らす。そのままゲッと頬が引きつった。
まさかの五キロの米って! コレ抱えて登る気だったの? 何気におばあちゃんすごくね?
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