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階段を登りきり、ちょうど真ん中辺りに来たときだった。涼しい風が優しく吹き抜ける。顔を上げると、見事な夕焼け。歩道橋の上から秋の高い空と暮れかかる黄金色の太陽に目を細めた。
渡りきったら、どうしようか……。まだ五時過ぎだし。すぐ帰っちゃうのももったいないし、このまま街をぶらつこうかな? 久しぶりにゲームショップを覗いてみようか? 最近は通販ばかりだし、中古で掘り出し物が見つかるかもしれない。そのあとは電気屋行って、本屋行って、夕飯も軽くそのへんで済ませちゃおうか。
この後の予定をツラツラと頭の中で企てながら、空いた時間の予定が当たり前のように、お一人様専用の思考になってる自分に一抹の不安を感じた。
眉を寄せ、遠くを見つめ考えてみる。
一抹の不安……だって。
そんな自分に首を竦め小さく笑った。
不安なんてあり得ないな。だって俺、お一人様大好きだもん。
大学を卒業して、社会人になり三年。ということはかれこれお一人様四年目か。就職活動やら、卒業制作やらで忙しくなって彼女にバイバイしてからはずっとお一人様を貫いている。
正直、面倒くさいんだよね。付き合うのって。一人が気楽で一番だよ。なんのしがらみもなく、マイペースで、自分の思う事だけやって、自分のためにお金を使って。お一人様最高。
「あ、ばーちゃん、下りの方が危ないから! 気をつけてね?」
「あ~……はいはい」
「ね、ばーちゃんさ? 米重いでしょ? どこまで行くの?」
え? そっちの荷物も米だったの? ってことは、十キロ持って歩いてたってこと!?
おばあちゃんの腕力と根性にビックリしていると、ニッカポッカ君と目があった。ニッカポッカ君は焦ったように目をそらし、おばあちゃんに話しかける。
話によると、今日はスーパーの特売日で米が安かったから、つい二つ買っちゃったということらしい。
つい……って……。
家はどこかと聞かれたおばあちゃんが指差した方向は明らかに街中とは反対方向だった。
もしかして家。遠いんだろうか……。
「ありがとう。ありがとう。ほんとに助かったわ」
「ばーちゃん家までどのくらい?」
「あー大丈夫。大丈夫。あとは真っ直ぐ行くだけだで」
「……ホントに? ついて行ってあげたいけど、お茶買わなきゃいけないしな~……」
チラリと腕時計を見て確認する。既に五時半を回っている。超スローペースでの歩道橋渡りは思ったよりも時間をくっていたらしい。もう階段はないとは言え、たくましいおばぁちゃんとは言え、十キロをぶら下げ、またフラフラ家まで……いったいどれくらいの時間を要するんだろう……。
そう思いはしたよ。確かに。思いましたとも。しかし、ニッカポッカよ。自分はお役御免ってソレどうよ? なんて微妙な心境の俺。白々しくチラ見してくるその視線。なんかヤだ。
もう、お一人様の予定は完全白紙になっちゃうな。ふーっ……。
肩を下ろし俺より背の高いニッカポッカ君を見上げ、仕方なく頷いて見せた。ニッカポッカ君が焦った表情で口を開く。
「あ、あのさ、俺……」
「コラーっ! 椿! 帰るぞ!」
反対側の道路から聞こえた怒鳴り声に、ニッカポッカ君はビクッとなって焦ったように振り返った。
へぇ~。ニッカポッカは「ツバキ」って名前なんだ。
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