第一章 出会い編 /side:柴田

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 そんなほのぼのした時間を過ごした翌週の月曜日。  今日は新しくオープンするカフェのオーナーさんと、工務店の現場監督さんの三者で内装デザインを詰める話し合いをすることになっている。面倒にならずスムーズに話が進めばいいんだけど。  白を基調にした壁。椅子やテーブルなどの脚物家具。明るく爽やかな店内に、しっとり流れるボサノバの音楽。優雅で清々しさを感じる店内。  ナチュラルブラウンのテーブルには、コーヒーと準備してきた書類。  携帯をタップし時間を確認した。十時二十五分。  そろそろ約束の時間だ。  コーヒーをひとくち飲み窓から店の外を眺めていると、丁度オーナーさんが現れた。軽く会釈して入ってくる。席を立ちオーナーさんを出迎え、今度は深くお辞儀をした。 「本日はよろしくお願いします」 「こちらこそよろしくお願いします」  お辞儀を返したオーナーさんへ向かいの席を「どうぞ」と勧め席に着く。程なく店員さんがオーダーを取りに現れた。オーナーさんが注文を終えるのを待ち、本題へ移る。 「この前おっしゃっていた間取り変更の件ですが、建築上の規定で柱の位置はずらせないとのことでしたので、ご要望に沿った全体的なデザインパターンを二案出してみました。こちらがその内観パース、透視図ですね。ひとまず現場の段階を見ていただいて、そこから現場の監督さんと相談という形で……」  デザインパターンの説明と軽い打合せを終え、オーナーさんを伴い現場へ移動する。丁度お昼時に差し掛かったところらしく、監督さんは現場のみなさんへ声をかけ、こちらへ向かってきた。お辞儀をして挨拶を切り出そうとした時、遠くの方で怒鳴るような声が耳に届く。 「ツバキー! 飯行くぞー!」  ツバキ? どこかで聞いたことのある名前だ。  現場監督さんの背後へひょいと目を向けると、懐かしい姿。明るいさらさらヘアーの長身の男がいた。  あ……ツバキニッカポッカだ。  久しぶりに見たニッカポッカ君は前回と印象が違って、なんだかちょっと覇気がない感じ。履いてるニッカポッカが黒色だからかな? どよーんというか、妙に元気なさげに見えた。クシャッと笑う印象の彼だったのに、今は見る影もない。  仕事で失敗でもしたのか? まさかめちゃめちゃお腹空いてるから。なんてことはないよね? らしくない……って、知り合いでもない俺が思うのも変だけど。  ツバキニッカポッカを見送り、監督さんへ視線を戻した。
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