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◇ ◇ ◇
本日は休日だというのに、電車に揺られている。
そもそも、なかなか家から出ない俺。
せっかくの休みにわざわざ街へ出るなんてレアなことをしているのは、会社の同僚に頂いた映画のペアチケットが原因。
まぁ、元々興味のあった作品だったのは事実。ただ何度も言うように、いかんせん相変わらずの一人だってゆーね。
会社の女の子を誘ってもいいんだけど、その後の展開が一気にややこしくなることが安易に想像できて尻込みしちゃうんだよね。ほら、俺ってめんどくさがりだから。
余ったもう一枚のチケットは……映画が当たりだったら二回観てもいいし。ハズレだったら誰かに譲ればいい。
地下鉄の改札を抜け、地上へ続く長い階段へ向かって歩いていると、小さな子供の泣き声が聞こえてきた。前方に、駄々をこねている女の子を宥めるお母さんが見える。背中に赤ちゃんをおぶって、階段を前に手にはベビーカーと荷物。
こりゃ、上の子が駄々をこねてなくても大変そう。とは言え、見ず知らずの男がまさかお母さんの代わりに女の子抱っこするわけにもいかないしね……。
そう考えながら、お母さんの背中へ声を掛けた。
「あの、良かったら、ベビーカーを……」
副音声のように誰かの声が重なる。
あれ? なにか懐かしい……このデジャブ感。
お母さん越しに向こうを覗いてみると、そこに立っていたのは明るいさらさらヘアーのツバキニッ……ツバキさんだった。
「うああぁぁぁっっ! ……とと……」
俺と目が合った瞬間、ツバキさんが大声を上げた。
デカい声に俺も、お母さんもちびっこ達も……いや、周りの人達もみんながツバキさんへ一斉に目を向けた。
一瞬のフリーズ後、「何が起こった?」とキョロキョロ状況確認。何も変わったことはなく、大げさな声の原因はツバキさんの中の何かだという結論に至った。
俺達に挟まれたお母さんが頭を下げて逃げようとする。
ツバキさんがバッと手を出した。
「ベビーカー、持ちましょうか?」
「あ、……でも……」
「抱っこぉ! ママぁ!」
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