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「あっくんも、まだ洗濯してるの?」
「うん。今さっき第二陣目を始めたとこ」
「そっかぁ~……あ、漫画読む?」
「うんうん」
最後の一枚になったTシャツを畳んで袋の中へ入れ、椿さんの隣に座った。てっきり雑誌コーナーに置いてある漫画雑誌のことを言ってるんだろうと思ったのに、椿さんはスクッと立ち上がり、外へ出て行ってしまう。程なくジャンバーの中に、二冊の雑誌を抱え戻って来た。差し出されたのは最新刊の漫画雑誌。
「はい。これさっき買ってきたのー」
「お! そういえば今日発売日だったね。もう読んだの?」
「ううん。俺、家でも読めるし。先にいいよ?」
「悪いね。じゃあ、お言葉に甘えて」
「うんうん」
椿さんは俺の隣に丸椅子を持ってきて腰掛けると、もう一冊の雑誌をめくった。『恐怖の都市伝説』という表紙。おどろおどろしい赤い文字だ。
「椿さん、そういうのも好きなんだ」
「え? ひゃははは。ネタだよ? ネタ。トラックの中で盛り上がるんだよ。兄さんと」
「ネタねぇ~」
「あ! 知ってる? たまにね? 家を解体してリフォームするでしょ?」
俺は漫画雑誌へ目を落としたけど、椿さんの話に再び視線を戻した。
「するとねー、壁から出てくるんだよね。いろんなモノが……」
「……なにが?」
意味深な、不気味な笑みを浮かべる椿さん。眉毛に妙な力が入る。
「……なんだと思う?」
ひょわー……な、な、なに? その含みがすでに怖いんだけどーーーー!
俺は口の中の息を飲み込んで、静かに聞いてみた。
「なによ……」
「あんね? 壁を壊したらね……もう一個、扉が出てきたの」
「……うん」
「古い屋敷だったから家主に問い合わせても、そんな部屋は知らないって言うのね?」
淡々と静かな口調で続ける椿さんに、俺は再び息を飲んだ。椿さんが寒そうに肩や腕を摩りながら話す。
なにそれ、演出過剰だよぉ……。
「でも、それも壊さないとリフォームできないし、木で出来た引き戸だったけど壊すことにしたんだよね」
俺はいつの間にか、手に持っていた新品の漫画雑誌に指をギュッと食い込ませていた。漫画雑誌を握って、話しの続きを待つ。
「でも、つっかえ棒がしてあるのか扉は開かない。ハンマーで叩いてもびくともしない。しょうがないからチェーンソーで……」
えーー、なんでーーーーっ! その時点で無理じゃん! 内側からつっかえ棒はあり得ない……つかあったらダメっしょっ!
「一時間くらいかかって分厚い木の扉の上半分を撤去できたのね?」
「す……すごく分厚かったんですね……」
なぜかいつも以上に丁寧語になってしまっている俺。
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