トリックアート

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「茉莉。俺は」  茉莉が泣きそうに眉根を寄せ、俺を見上げた。 「定期券、誰のだった?」  茉莉が尋ねる。茉莉はわかっていた。間違えていたのは俺だったのだ。 「……俺は、誰だ?」 「彗よ。川畑彗」 「彗は死んだはずだ」 「亡くなったのは昴太よ」 「子供を庇って、事故で」 「子供じゃないわ。あなたを庇ったのよ」 「……」  俺はその場に崩れ落ちた。  昴太は死んだ。  俺が守ってやれなかった。 「彗。昴太は彗が生きるために守ったのよ。代わりになってもらうためじゃないよ」  茉莉がかたわらに膝をつく。俺の手を握り、俺は茉莉の温もりにすがりつくように強く握り返した。  歩道に突っ込んできた車。それを遮るように必死な表情の昴太が目の前に立ち塞がった。俺は突き飛ばされ、アスファルトに転がった。爆発のような大きな音がした。目を開けたときに昴太は近くにいなかった。驚き立ち止まる人々の視線の先にフロントのひしゃげた車。その向こうに駆け寄る人の姿があった。昴太はそこにいた。お前、ずっと一緒にいるって言ったじゃないか。守るのは俺のはずだったんじゃないか。昴太は答えなかった。誰も答えてはくれなかった。  俺は茉莉の手を握り続けた。  俺の中で生きていた昴太が遠のいていく。  いつか一緒にいるような気持ちになれるだろうか。  天使がラッパを吹いている。  神々しい輝きが降り注いでいる。  俺はいま、生きている。
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