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汗だった。
汗をかいてやる仕事は嫌いだったのだが…落ちて来た汗を見て咲也は笑みを零してしまった。
この汗の何処が汚いんだよ…と…。
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次の日、いつも通りホストの仕事をしていると咲也に指名が入り席に向かうとそこにいたのは、まさかのあの綺麗なお兄さんだった。
「うっそ、マジで?お兄さんってまさかそっち…「んな訳あるか、いいからさっさと席に着けよ!」
言い終わる前にキッと綺麗な顔で睨まれてしまい咲也は「失礼しまーす」と隣に座って、とりあえずドリンクを頼んで乾杯をした。
暫く沈黙が続いており咲也が声をかけようとしたがその前にお兄さんがちゃんと向かい合う様に座り直してから頭を下げてきた。
「ありがとう、僕の代わりに働いたと聞いた」
「え、あ、ああ…てかお前体調大丈夫?」
「ああ、もう大丈夫だ。大事を取って明日から現場に戻ることになったけどな」
キリッと凛々しい表情で答える相手に咲也は少し呆れながら「気をつけろよー」と軽く声をかけて飲み物を一口飲んだ。
するとお兄さんが真剣な表情で話し出した。
「実は、僕の家は母子家庭なんだ」
いきなり切り出された爆弾発言に咲也は少し考えてから問いかけた。
「………それ、俺が聞いていいやつ?」
「聞いて欲しいから言ってるんだ、僕の父親はキャバクラ通いをしていたんだ。その時の母さんはすごく大変だったと聞く…周りに頼る人もいなく1人で育児をしていた…と」
真剣な話にいつもなら茶化したりする咲也だが、今回は黙って話を聞くことにした。
「物心がついても母親は大変そうだった、それを僕はずっと覚えている。だから僕自身こういう仕事は嫌いなんだ…父親を思い出すからな」
「なるほどね…せっかくの綺麗な顔がもったいないな」
手を伸ばして相手のサラサラな髪の毛に触れるとジト目で睨んできてパッと手を離した。
「だから、僕はこういう系の仕事より汗臭い仕事の方が好きなんだ」
「…なるほどな…」
「しかしお前こそもったいないな…」
お兄さんの言葉に咲也はきょとんと目を見開いた。
どういう意味なのか、全く分からなかった…。もったいないと言われる事をしている自覚は咲也にはなかった。
「え、どういうこと?」
問い掛けるとお兄さんは口角を上げて笑みを見せて来た。
「先輩達から良かったって、お前、ホストよりこっちの仕事の方が似合ってるんじゃない?」
「……いやー、俺は汗臭いの嫌いだし…」
「そうか、残念だな」
時間になりお兄さんは去っていき、今度は女性の客に指名されたが咲也の頭の中では先程の言葉がグルグルしていた。
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