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人生イージーモードだと考えていた男がいた。
まぁまぁ良い外見に、空気の読める力と誰に着けば良いのか分かる力を使って、咲也はホストクラブで働いていた。
今日もお姫様を満足させて先輩らを褒めて媚びてな1日を終わらせ家に帰ろうとすると、ふと工事現場の横を通った。
昼夜問わず作業をしており、低い怒声が響き汗臭い匂いに(あー、無理)と思いながらその場を去ろうとしたが、上から何かが落ちてきてそれは咲也の足元に勢いよく落ちた。
それは工具だった。
あと数cmズレていたら…そう考えると咲也の顔面は真っ青になり、工具を拾うと投げ入れようかと悩んだが「すみません!」と若い男性の声が聞こえてきて、咲也はそちらを見た。
そこに居たのは作業服とヘルメットには似合わない綺麗な顔をした男性だった。
自分と同じくらいの身長、少し細めなのか作業服は少しダボっていたが、何より惹かれるのはその綺麗な顔だった。
咲也の働くホストクラブのNo.1にもなれるんじゃないかと、思ったくらいだった。
ボーッと見つめていると男が嫌そうな表情で問い掛けてきた。
「あ、あの、大丈夫ですか?」
「…へ?あ、悪ぃ悪ぃ…じゃなくて、危ねぇよ、工具落ちてきたんだが!?」
「本当に申し訳ありません!!怪我とかは」
近寄って確認をしてくる相手から汗臭さを感じて、咲也は顔を歪ませてしまった。
「あのさ、お兄さんは何で工事現場で働いてんの?」
「はぁ?」
まさかの質問にお兄さんは素で反応してしまったらしく、ちょっとヤンキーっぽさが含まれていたが咲也はお構い無しに口を開いた。
「いや、お兄さん。超美形じゃん?ホストとか似合いそうだなーって思って!働くならホストやろうよ、もったいないなーその綺麗な顔!!」
「………」
お兄さんの顔付きが怖くなっていくのを見て、咲也はやらかしたか?と考えているとお兄さんは深くため息をついて咲也に背を向けてヘルメットを直してから答えた。
「ホストも立派な仕事かもしれないが…僕にはこういう仕事の方が似合うし外見だけしか見ない嘘だらけの世界にこれっぽっちも興味はないんだよ、楽しさも分からないしな」
「………」
「…じゃあな」
何も返すことが出来ずにいるとお兄さんはスタスタと去っていってしまい、咲也もさっさと歩いて家へ帰っていった。
だが家に帰ってからもずっとお兄さんからの言葉が頭の中をグルグルしていて、咲也は寝付くのに時間がかかってしまった。
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