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相良「はぁ・・・・はぁ・・・は・・・はぁ・・・」
海から押し寄せる白い波。
訪れては、戻り、それを繰り返す砂浜の上。
日が登り、朱色に染める砂浜に、人を抱えて、一人の男が流れ着く。
否、流れ着く自然的な因果ではない。
自らの力で辿り着いた。
その男は、意識を保っている事が不思議になるほど、肉体の限界をとうに超えていた。
既に、思考は存在せず、ただ、ここに辿り着く事だけを思い、長い距離を人を抱えて泳ぎ着いた。
衣服は破れ、足は海中生物の本能のまま食い散らかせ、大量の歯型と傷跡が残り、人の肌色ではなく、血が流れきったように青く染まり、腐り、冷え切った両足、もう立ち上がる事もできない程に痛み、使い切られた両足があまりにも惨たらしい。
だが、彼は、その絶望に晒されても、ただ一人の女性を助ける為に、ここまで来た。
相良「は・・・は・・・」
呼吸も浅い、肺を動かす当たり前の運動でさえ困難である。
相良「ふ・・・か・・・つい・・・た・・・」
彼は、ここまで共に連れて来た女性に触れる。
彼では、この女性が生きているのか死んでいるのかでさえ判断する事はできない。
女性は海水にさらされ続け、血色は青白く生気は感じられない。
息をしていたのか?
心臓は動いていたのか?
それもわからない。
相良「・・・」
まだ・・・ゴールではない。
彼の目的は、この女性、深田優子を助ける事だ。
ここでは、まだ終われない。
まだ、終わっていない。
相良「ぐ・・・」
どこに残っているかもわからない力を振り絞り深田を抱える相良、ブルブルと両足は震え、目は意識が飛びそうに白目を剥き、視界でさえはっきりとしない。
一歩、
また一歩と砂浜を踏み締める。
安定しない足元に何度も倒れるが、彼は何度でも立ち上がり、足を踏み締めて、歯を噛み締めて、限界を超えた肉体をただ動かす。
相良「だ・・・れ・・か・・・」
誰か、人に会えれば、助かるかもしれない。
そもそも人がいればの話だが・・・この砂浜の近くに人がいなければ?ここが無人島だったら?
そんな不安ばかりが頭をよぎるが、彼にできる事は、動く事だけだった。
そして・・・
砂浜を越えた先に、一軒の民家を発見する。
相良「はぁ・・・はぁ・・・家・・・だ。」
彼は、しずく程しか残っていない体力を振り絞り、民家まで這いずりながら動く。
相良「だ・・・」
玄関先で、誰かいないか?と声を出すが、声が出ない。
相良「だぁッ!!・・・・れッ・・・!!・・・か!!」
・・・
声にならない叫びだけが、虚しくガラス張りの玄関に放たれる。
相良(頼む・・・この人を・・・助けてくれ・・・)
彼の視界は黒く染まり、意識は深く沈む・・・
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