#1 しにものぐるい

5/10
前へ
/34ページ
次へ
 深田さんは無事だった。 この事実だけでも、俺にとっては十分すぎる。 相良「助けてくれたんですか・・・?ありがとう・・・ございます。」 「いえいえ、気にしないでください。」  女性は優しい表情で答えた。 俺はこの時、この世に聖母という人が存在するなら、この人の事だろうと確信する。 ーーー  しばらくして、白衣を見に纏ったジーパン姿の初老の男性が部屋に入ってきて、血圧や体温を測り、診察を始めた。 「うむ。意識は戻ったが、まだ血圧が低いなぁ。まぁ飯食ったら大丈夫だろう。体は動くか?」 相良「はい。なんとか・・・」 「動くだけでも大したものだ。お前がここに着いて、俺が見た時には酷いもんだった。」 相良「・・・」 「海水に晒され続け傷から菌が入り化膿、さらに血液もずっと垂れ流しで貧血。全身の筋肉は限界を無視して酷使され尋常ではない筋肉痛、サメに噛まれたか鋭利な刃物で切られた跡に、銃弾に撃ち抜かれた傷。よく生きていたと思える程だ。 横の姉ちゃんはまだ意識は戻らないが、こっちの姉ちゃんは銃弾意外の傷は見当たらない。俺の仕事は治すことだから興味はないのだが、お前まさか、この姉ちゃんを守りながらここまで泳いで来たのか?」 相良「はい・・・」 「そうかぁ・・・すさまじいなぁ。だが、喜べ、お前の助けようとした姉ちゃんも無事だ。やりがいがあったな。」 相良「そう・・・ですね。」 「それと、当たり前だがこの孤児院のハルカちゃんと、お前を見つけたユウタ君にもしっかり感謝しとくんだな。薬は置いていく、お前の頑張りに免じて、今回はつけといてやるよ。」 相良「ありがとう。ございます。」 「まぁ、ハルカちゃん・・・」 ハルカ「はい、私達で預かります。」 「そうか。お前が完治するまでは、ここで厄介になれ。とにかく安静にする事と、しっかり食事を取る事だ。」 相良「・・・でも・・・いんですか?そんな迷惑かけて。」 ハルカ「大丈夫です。こういう事には慣れてます。それに・・・」 「あぁ・・・そうだな。ここの元園長さんならきっとそうするだろうな。」 ハルカ「はい。」 相良「すいません。迷惑かけます。」  俺は、深々と頭を下げた。 命を助けてもらって、治療まで受けさせてもらい、さらにしばらく世話になる。 感謝以外になるをするというのだ。  本当に、ありがたい。 「それじゃ、今度は姉ちゃんが起きたら呼んでくれ。・・・あぁそうそう。お前、名前は?」 相良「相良・・・剣一です。」 「そうか、かっこいい名前だな。じゃお大事に。」  医者の男は、荷物をまとめ、幾つかの薬を置いてこの場所を後にする。
/34ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18人が本棚に入れています
本棚に追加