#1 しにものぐるい

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 医者の男を見送った後、部屋へと戻るハルカさん。 ハルカ「お腹空いたでしょ、ご飯用意しますね。」 相良「あ・・・」  部屋を出ていったハルカさん。 俺は、この時に抱いた疑問がある、それはこの人は俺達の事情を一才聞いて来ず、把握できるのは事実だけだ。 普通はこんな傷だらけで、更に銃で撃たれた傷もあると、何かの事件に巻き込まれたとか、ヤバいと思うのが普通のはずだが・・・  そんな俺達二人が何処から来たのかも聞かずに、全てを包み込む様に受け入れて、無償で手当もしてくれる。 俺は、そんなハルカさんの懐の深さに感服する。   とは言う物の、ちゃんと話さなければならないよな、俺は中国マフィアに拉致されたことも、そこから逃げてきた事も。 ハルカ「お待たせしました。起き上がれますか?」 相良「はい・・・」  ハルカさんが支えてくれながら、ゆっくりと体を起こしす。 布団の横に小さい机を用意し、食事を置いてくれた。 用意された食事は、消化のいい粥に、味噌汁、焼き魚に漬物と八宝菜のあえもの。家庭的な日本食だった。 ハルカ「どうぞ、遠慮せずに飯あがってください。」 相良「いただき・・・ます。」  こんがりと焼かれた焼き魚の身をほぐしてから一口食べ、柔らかくなった白米の粥を蓮華ですくって食べる。 相良「・・・」  そして、暖かい味噌汁を口にする。 相良「・・・う・・・うまい・・・」  気がついたら両目から大粒の涙が流れていた。  一口食べるごとに、これまでの苦労が思い起こされた。 それはこんなに安心でき、心温まる事ではない。 度重なる戦いに喧嘩、命をかけた銃撃戦、死の物狂いで泳いだ海。 その果てに、こんなに懐かしく心が温まる食事に、感動して涙が止まらない。 そんな俺を、ただ黙って優しく迎えるハルカさんは、本当に聖母の様だった。  心も腹も満たして、俺は食事を平らげる。 相良「ご馳走様さまでした。」  両手を合わし、食事と、それを用意してくれたハルカさんに感謝する。 ハルカ「相良くんでしたね。改めて、私はここの孤児院の園長のハルカと言います。怪我がよくなるまで、遠慮せずにここにいてください。それとも、どこか帰る場所がありますか?」 相良「いや・・・ないです。」  俺には、帰る家はない。 両親は6年前に殺され家も解体されて、今はただの更地に成り果てている。 ハルカ「そうですか。ここは、そんな子達が集う孤児院ですから。」  孤児院・・・そうか、俺みたいな事情でここへやってくる人もいるという事か、それでこういう状況にも慣れているんだな。  だけど、それにしてはあまりにも寛大すぎやしないか? ましてや俺達の状態は事件性が疑われて然り、深く聞いてこないことは俺にとっても都合がいいのだろうが、やはりここは話すべきだろうか。だけど、どう話したらいいのか・・・ それと、話す事は正解なのか?逆に不安にさせたりしないだろうか?
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