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ハルカ「何か、気かがりな事があるんですか?」
相良「えっ・・・と。」
俺が本当の事を話すべきか悩んでいる事に、ハルカさんは表情一つ変えずに問いかける。
相良「・・・」
曇りの無い瞳、優しい表情、俺は全てを話しそうになり、全てを受け入れてほしいとそう思ったが・・・やはりダメだ。
事実を話せば、間違いなく不安に思われてしまい、ここにいる子供達にも良いとは言えない、何よりも俺一人だけなら万が一に出てけと言われてもいいが、深田さんは違う。医者の男は大丈夫と言っていたが、意識が戻らない中で無理はさせれない。
深田さんか、この孤児院。
助けてもらった事はありがたいが、俺の優先するべき人は深田さんだった。だが、心に引っかかるのは罪悪感。
あぁ苦しいな・・・
ハルカ「大丈夫ですよ。」
相良「えっ?」
ハルカ「言いづらい事があっても私達は大丈夫です。誰でも言いにくい事があって普通、でしょ?」
相良「はい・・・まぁ・・・」
ハルカ「だから、ゆっくりでいいんです。すごく大変な事があったと思うけど、ここでは安心してください。」
相良「・・・すいません。」
ハルカさんは優しく笑った。
何も言わなくてもいい、何も聞かなくてもいい、ただ困っている人を放っておけないという優しさに頭が上がらない。
この時、俺はその眩しさと温もりに照れてしまったのか、頭が上がらないのか、部屋の中を見渡した。
左の布団では深田さんが静かに寝ていて、右はガラス戸に縁側と青い空、床は正方形の琉球畳、そして部屋の隅には、黒い重厚な作りの仏壇と、一枚の顔写真があった。
孤児院に仏壇?
少し違和感があったが、その写真に写る人物は口角が上がり、笑顔がとても朗らかな幸せそうな表情をしていた。
この人、どこかで見覚がある気がするが・・・思い出そうと見つめていたら
ハルカ「あの人は、このひまわりの園長だった人です。」
相良「園長?だった人?」
ハルカ「はい。本当に子供達の事を大切にし、家族の様に接してくれました。」
相良「・・・お父さんですか?」
ハルカ「血の繋がりはないんですが、私やここにいた子達からすると父親のような人でした。強くて優しくて、とても頼りになる人で、私も何度も助けられました。」
相良「そうだったん、ですね・・・でも今は・・・」
ハルカ「はい。6年前にこの世をさりました。まるで、自分の役目が終わった様に、最後には本当に満足そうな顔で・・・」
相良「・・・」
ハルカさんは少し悲しそうな表情をするが、恐らく既に乗り越えたんだと思う。どこか決意というか、受け継がれた意志、自分の役目をしっかりとわかっている雰囲気だった。
強い人だなと、そう思った。
それにしても、改めてその顔写真を見るが・・・やはりどこかであった気がする。
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